スティーブ・ジョブズの舞台裏
2011年に亡くなったApple共同創業者の1人、スティーブ・ジョブズの伝記映画。
舞台で新商品発表を行うジョブズではなく、その舞台裏に迫っている作品です。
『スティーブ・ジョブズ』概要
公開年:(米)2015年10月9日*1、(日)2016年2月12日
上映時間:122分
監督:ダニー・ボイル
あらすじ
パソコンか携帯電話さえあれば、指1本動かすだけで、いつでもどこでも世界中とつながることが出来る。今では当たり前のライフスタイルも、この男がいなければ、きっとまだ実現していなかった。2011年に56歳の若さで他界してから、彼がいかに素晴らしいマシンを作り上げてきたかが様々な形で紹介されてきた。しかし、本作は、パソコンの誕生話でも単なる伝記でもない。
感想
スティーブ・ジョブズに関する映画は、今作より以前の2013年にも別の監督によって公開されており、そちらは未見です。そちらも気になっているので、時期を見て鑑賞すると思います。
今作では1984年Macintosh、1988年NeXTCUBE、1998年iMacのそれぞれの新作発表会の舞台裏に焦点を当てています。
Apple創設までの道のりや商品開発についてはメインではなく、新作発表会という場所に立つまでの舞台裏のジョブズ(マイケル・ファスベンダー)を中心に描かれます。
そのため今作では、発表会自体は描かれません。
今作で描かれたジョブズの時代説明をざっくりとしますと…
1984年のMacintosh発表から約1年後にはAppleを離れ、自身で新たに立ち上げたNeXTというコンピュータ企業で主に教育機関向けにNeXTCUBEを開発、1988年に発表。
1996年にはNeXTをAppleが買収することに合意し、それと同時にAppleに復帰。1998年にはiMacを発表。
Apple立ち上げに至るまでも激動だとは思いますが、今作では世に広く知られるようになったジョブズの激動の時代を3つの新作発表会に焦点を当てることで描かれます。
そして、発表会直前のジョブズを見せることで、彼による容赦ない物言いや要求により周囲の人間が振り回される様子もしっかりと描かれています。
あのなんとも言えない、ただただ凍りついた空気が画面から伝わってきて、自分がその場にいるのかと錯覚するくらいでした。
発表会直前なのにMacintoshが「hello」と言わないという不具合が発生し、それに対処するプログラマーのアンディ・ハーツフェルド(マイケル・スタールバーグ)には、「Macintoshが発表会で”hello”と言わなければ、スタッフ紹介のときに”故障した音声デモを担当したアンディ・ハーツフェルド”と紹介する」と脅迫する場面は、観ているこちらの息が止まるかと思うほど。
この発表会についてはyoutubeで「Macintosh hello」と検索して実際の動画があったので観てみましたが、「hello」以後の文章も喋っていて驚きました。
まさかその発表会の舞台裏では攻防が繰り広げられていたとは…
そして、その攻防をなんとかコントロールしようと奮闘していたのが、ジョアンナ・ホフマン(ケイト・ウィンスレット)でした。
マーケティング担当として新作発表会を滞りなく行うため、作中を通してジョブズの公私の問題に向き合っています。
作中では「仕事上の妻」だと彼女は言いますが、実情は母親的な役割を担っているように見えました。
ジョブズとその娘のリサとの関係も描かれる今作では、ジョアンナが間に入ることで両者の関わりが保たれているようにも思いましたし、Appleの共同創設者の1人であるスティーブ・ウォズニアック(セス・ローゲン)とジョブズの衝突では、その場にいたスタッフがジョアンナを呼んでくるところからも、ジョブズに関する困りごとは彼女に任せられていた部分もあるのだと思いました。
もちろん、本作は事実に基づいてはいるでしょうが、多少の脚色はあると思うので一概には言えません。
しかし、発表会直前にジョブズに寄せられる周囲の人間からの言葉に関して、彼自身が彼女に本音を漏らすなど、冷徹な様子に加え人間味のあるジョブズの姿が彼女によって観せられているとも思います。
彼女がジョブズの唯一の精神的な味方かと思えますが、映画を通してみていると前述のアンディや、その他に登場する人物たちとも必要以上に波風立てずに常識的な関係を築けば少なくとも敵ではなかったはず。
どこまでが”必要”な波風なのかは難しいところですし、ジョブズの人格形成に何が影響していたのかも少しずつ描かれているので、人間関係の構築が難しかったという彼の側面にも目を向けることになりました。
ことごとく常識的な部分を削ぎ落としており、「二兎追う者は一兎をも得ず」ということわざがありますが、一兎に絞って追っていたのがジョブズという印象でした。
Macintoshの技術面における拡張性の排除には、他人の介入を許さない自己完結的なジョブズの姿勢が如実に現れていたと思います。
それでもやはり常識的には作中でウォズニアックがジョブズに放った「人格と才能は共存できる」という言葉は正しいと思いますし、今作を見る限りだとジョブズが全て正しいとは思えません。
常識から逸脱することで革新的なものを世に発表したという点を考えると、極端さがあってこそだったのだと思います。
そしてそんな狂気に満ちたジョブズが描く革新的なものには、人を引き寄せるものがあったのも事実でしょう。
今作はジョブズの実績以上にそういった狂気的な人格面に絞っているので、彼に共感するのはなかなか難しい伝記映画だと思います。
むしろ彼の周囲の人間に共感することにより、ジョブズに迫る映画だと思いました。
感想にからめた雑記
本作を観るにあたっては、会話中心で展開が早いのでスティーブ・ジョブズという人物についてや、Appleの創業について、ジョブズがAppleを去った経緯、ジョブズが発表した製品などの情報をおまかに知っていないと、飲み込めない場面も出てくるかもしれません。
とはいえ、木暮自身はそこまでジョブズについて知っていたわけではないので、うっすら知っているという状態で観ても集中して観ることができました。
上記の感想では書いていない重要人物がおり、その人物とジョブズの関係も見所のひとつです。
また、ジョブズの伝記本も、前述の2013年公開の映画も、今作公開時も、発表当時に様々なところで目にしていましたが、ジョブズが亡くなってわりと早くに次々と発表されたため、謎の拒否感があって今日まで観ていませんでした。
前回、Magic Mouseとお別れした記事を書く中で、芋づる式にApple製品を調べていくにつれ今作を観ようと思うようになり、やっと鑑賞しました。
また、今作の原案になっているウォルター・アイザックソンによる伝記『スティーブ・ジョブズ』も気になりました。
余談
Appleに関連した全くの余談なのですが、先日AirPods Proの新しいCMを見ました。
使用されている楽曲がPixiesの『Where Is My Mind』のカバーだったため、思わず見入ってしまいました。
この楽曲は1999年公開の『ファイト・クラブ』で使用されたものでもあり、それをAppleのCMで聴くことになって謎にテンションが上がりました。
関連サイト
関連記事(2023年5月9日追記)
ダニー・ボイル監督作品『スラムドッグ$ミリオネア』を鑑賞したので感想記事を書きました。
*1:同年9月7日開催のテルライド映画祭にて先行上映