なぜ青年はミリオネアまでたどり着いたのか
イギリス発祥で日本でもかつて放送されていた『クイズ$ミリオネア』を題材にし、インドを舞台に主人公ジャマール・マリクが無学な青年であるにもかかわらず、なぜ『クイズ$ミリオネア』で高額賞金までたどり着いたのかを彼の人生を振り返りながら迫っていく作品。
『スラムドッグ$ミリオネア』概要
公開年:(米)2008年11月12日、12月26日拡大公開、(日)2009年4月18日
上映時間:120分
監督:ダニー・ボイル
あらすじ
今まさに爆発しそうなインドのエネルギー、そして、その混沌と貧困のただ中で夢をつかもうと生き抜く孤児のジャミール。物語は世界的な人気番組『クイズ$ミリオネア』で、ジャミールがあと一問で全問正解と言う緊迫した場面から始まる。しかし、インドのスラム街で育った無学の少年が質問の答えを知るはずもないと、司会者に疑われ、賞金を払いたくないTV番組会社の差し金で警察に連行され、尋問を受けることになる。
主人公はどうして、100ドル札に印刷された大統領の名前や、ピストルを発明した人物を知り得たのか。警察の尋問シーン、クイズが続くミリオネアの番組、そして、彼がその答えを知ることとなる子供時代の記憶。3つの時間軸を行き来しながら、貧しいスラム街やタジ・マハール、建ち並ぶ高層ビルなど、過激なまでに貧困と富の差が混在する、今のインドを失踪しながら、<生きるために答えを知ることになる>少年の人生を、生命力溢れる演出と、多彩な映像美で描く。
感想
物語冒頭では、以下の質問が投げかけられます。
「彼はあと1問でミリオネア。なぜ勝ち進めた?」
A.インチキした
B.ツイていた
C.天才だった
D.運命だった
主人公のジャマール(デーヴ・パテール)は兄サリーム(マドゥル・ミッタル)とともにインドのムンバイにあったイスラム教徒が多く住むスラム街で育ちました。
貧しい育ちで、ほとんど無学であるにもかかわらず『クイズ$ミリオネア』で高額賞金までたどり着いた彼はインチキを疑われ、最後の1問を目前に詐欺罪で警察に連行されます。
そして彼がなぜクイズに正解し続けたのかを彼の人生を回想することで紐解いていきます。
ジャマールとサリームは宗教的対立による暴動で幼いころに母親を亡くし、暴動の最中に出会った少女ラティカ(フリーダ・ピントー)と3人で生きていこうとしました。
ゴミ集積場で生活を送っていたある日、子供による物乞いの元締めであるギャング・ママンに声をかけられ、彼に着いていくことに。
そこでお金を稼いで豊かな暮らしを送るという夢を持ちますが、ママンが物乞いの料金を高くするために子供たちの視力を奪うなどの虐待行為をおこなっていることを知り、その場からなんとか逃げ出します。
その際にラティカとははぐれてしまい、その後はしばらく兄弟だけで列車内で稼ぎ生活を送るようになりました。
列車内での生活を続け、その数年後にはインドの北部のタージ・マハルに辿り着き、そこで生計を立てるようになったジャマールとサリーム。
タージ・マハルでは観光客がたくさんいて、観光ガイドとして稼ぐようになります。
しかしジャマールはタージ・マハルで稼ぎながらも、ママンから逃げる際にはぐれたラティカのことをずっと忘れられずにいました。
ふたたびムンバイに戻りラティカの行方を探し続け、かつてママンのところで一緒に過ごした物乞いの少年からラティカの居場所を聞き出します。
そして兄弟でラティカのところへ向かいますが、その際にママンとトラブルになり兄サリームは良くない方向へと進んでいき、そのことがきっかけで兄弟は離れ離れになることに。
また、ラティカと再会を果たしますが兄とのトラブルのせいで、再び彼女とも離れ離れになり、お互いの居場所がわからない状態で数年が経過します。
その後、とあることからジャマールの人生は動き出していきます。
今作ではジャマールの成長とともにムンバイという街がどんどん成長していく様子も描かれ、とても印象的でした。
スラム街だった場所が新たな建物で埋め尽くされ、かつてあったジャマールの生活やそこで起こった暴動などがまるで嘘かのように発展していく街の姿には、切ないものがありました。
近年のインドの発展をメディアを通じて外から知っている分には、街に高層ビルが建設されるのは経済的な発展が凄まじい証拠だという印象しか持てませんでしたが、その地であった宗教的対立やスラムの暮らしなどをみていくと、そこに住んでいた人たちはどうやって生きていったのだろうと考えてしまいます。
もちろん今作はフィクションなので、実際の街とは異なる点もあるとは思いますが、ムンバイという街がジャマールという青年を通してみることで、以前よりも少し厚みをもったものとして印象に残りました。
彼が問題を解けた理由を辿るにつれ、彼の人生すべてが『クイズ$ミリオネア』の質問に集約されていく様子や、ラティカやサリームとの関係など二重にも三重にも物語が重なっていて、一筋縄にはいかなかったジャマールの人生と共に一喜一憂して鑑賞していました。
この映画の特質上、回想から現在のクイズの質問に繋がる構成のため、典型的なご都合主義になりそうなところですが、あまり予定調和感を感じずに観ることができました。
クイズ番組が題材になっていることを踏まえると、個人的には納得の流れだったと思います。
また、物語冒頭の質問も十分に効いていたことも関係していると思います。
果たして彼が問題を解けた理由は、4択のうちのどれだったのか。
最後にはインドを舞台にした作品ならではの演出もあり、明るい気持ちになる映画でした。
今作の主演デーヴ・パテールが出演した『奇蹟がくれた数式(2015年)』も気になっているので、時期をみて鑑賞しようと思います。
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