やおら日記

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【洋画】『ザ・スクエア 思いやりの聖域』感想

 

2017年公開のスウェーデン発の映画。

 

現代美術のキュレーターであるクリスティアンと、新たに展示される《ザ・スクエア》という作品によって浮き彫りになってくる現代社会の問題への風刺が効く作品。

 

 

ザ・スクエア 思いやりの聖域』概要


www.youtube.com

公開年*1スウェーデン)2017年8月25日、(日)2018年4月28日

上映時間:151分

監督:リューベン・オストルンド

 

あらすじ

クリスティアンは現代美術館のキュレーター。洗練されたファッションに身を包み、バツイチだが2人の愛すべき娘を持ち、そのキャリアは順風満帆のように見えた。彼は次の展覧会で「ザ・スクエア」という地面に正方形を描いた作品を展示すると発表する。その中では「すべての人が平等の権利を持ち、公平に扱われる」という「思いやりの聖域」をテーマにした参加型アートで、現代社会に蔓延るエゴイズムや貧富の格差に一石を投じる狙いがあった。ある日、携帯と財布を盗まれてしまったクリスティアンは、GPS機能を使って犯人の住むマンションを突き止めると、全戸に脅迫めいたビラを配って犯人を炙り出そうとする。その甲斐あって、数日経つと無事に盗まれた物は手元に戻ってきた。彼は深く安堵する。一方、やり手のPR会社は、お披露目間近の「ザ・スクエア」について、画期的なプロモーションを持ちかける。それは、作品のコンセプトと真逆のメッセージを流し、わざと炎上させて、情報を拡散させるという手法だった。その目論見は見事に成功するが、世間の怒りはクリスティアンの予想をはるかに超え、皮肉な事に「ザ・スクエア」は彼の社会的地位を脅かす存在となっていく……。

(引用)映画『ザ・スクエア 思いやりの聖域』公式サイト|4月28日(土)公開より一部抜粋して引用

 

感想

2018年の春に日本で公開していた当時から観たいと思っていた今作。

 

Amazon prime Videoで鑑賞できることに気づき、やっと鑑賞しました。*2

 

 

主人公のクリスティアン(クレス・バング)は主に現代アートを収蔵する美術館のキュレーターで、メディアからのインタビューや美術館で新たに展示をする作品《ザ・スクエア》のプロモーション準備に追われるなど、充実した日々を送っていました。

 

ザ・スクエア》はその名のとおり地面に正方形を描いた作品で、その中では「すべての人が平等の権利を持ち、公平に扱われる」という「思いやりの聖域」をテーマとし、その枠内で誰かが助けを求めれば周囲にいる人は助ける義務があるという利己主義へのアンチテーゼとしての意味合いが込められています。

 

クリスティアンが住む街では道端に多くの物乞いがいますが、彼らの前を通る人たちは気にもとめていない様子で素通りしていきます。

 

彼もそのなかの1人でしたが、自身が関係する美術館においてはそういった現代社会へ一石を投じる《ザ・スクエア》の展示に意気込んでいました。

 

社会的なメッセージ性が強く、美術館の新たな目玉としても重要な作品である《ザ・スクエア》の発表の準備に追われる中で、通勤途中に「助けて」と叫び逃げる女性を助けたところから彼の日常に変化がおとずれます。

 

女性を助ける混乱の中で財布とスマホを紛失したクリスティアンは、追跡機能を使って紛失したスマホの場所を割り出し、部下の提案でそのマンションのポストすべてに脅迫めいた文書を入れて犯人から取り返そうと試みました。

 

その結果、紛失したものは返されることになりましたが、これまでの順風満帆な日常のペースは乱れていきます。

 

ザ・スクエア》のプロモーションについての会議に出席してもクリスティアン本人がその会議に集中できておらず別のことに気を取られ、その些細な油断からとある出来事へと発展していきます。

 

ザ・スクエア》のコンセプトや、それを語るクリスティアンの言葉から彼自身が利他的な考えを持つ人間なのかと思うと、そうではありません。

 

脅迫的な文書をポストに入れるよう部下から提案されたとき、当初は難色を示しますがそこまで時間をあけずに結局は行動に移してしまったことや、物乞いから声をかけられてもぞんざいに扱うなど、冒頭の人助けのシーン以降は徐々に彼の矛盾する部分が露見します。

 

しかも紛失物を取り返すためにとった行動によって新たなトラブルに遭い、その際も自分ではなく部下の責任にしたがったりと責任転嫁をする場面もありました。

 

でもその責任転嫁こそが利己主義の最たるものではないか。

 

そういう彼の矛盾に対し、女性記者アン(エリザベス・モス)はクリスティアンにダイレクトに問い詰めます。

 

彼女自身やその家に住む猿の存在などへの違和感は残りますが、彼女はクリスティアンのそういう矛盾を見逃さず、彼が自分の地位を使って女性を誘惑しているのだと強く指摘します。

 

そして彼の文書の被害を受けた少年も、彼の行動に怒りをぶつけます。

 

その少年は当初、クリスティアンの文書によって家族から誤解をされたということで謝罪を求めましたが、クリスティアンはその少年をまったく相手にしません。むしろ前述のように部下の責任にしようとしたり、最後まで少年に対して対等な立場で向き合おうとしませんでした。

 

そういったクリスティアン現代社会の状況を象徴するのが、物語終盤にかけての食事会での一幕です。

 

美術館で映像展示されている猿パフォーマーのオレグ(テリー・ノタリー)による、常軌を逸したパフォーマンスは、恐怖さえ覚えるほどの異様さでした。

 

食事会の場にいた芸術に関心のある観客の中を縦横無尽に駆け抜け、予測がつかない野生的な振る舞いをしはじめたことで、観客は彼と目を合わせないようにします。

 

そんななかでそのうちのひとりが彼のパフォーマンスによって恐怖を覚え、周囲に助けを求めます。しかし彼らの反応は物乞いの前を素通りする通行人と重なって見えてしまうほど「関わりを持ちたくない」という意思が透けて見えるものでした。

 

ザ・スクエア》はそういう他者への無関心に対する問題提起の意味合いが込められた作品ですが、今作を通してみてみるとそれ単体ではなくモンキーマンのパフォーマンスが加わることで成立した作品なのではないかとも思いました。

 

そしてその《ザ・スクエア》のPRでは、クリスティアンが意図しないところで世間を巻き込む炎上に発展していきます。

 

それによって彼のこれまでの生き方が脅かされ、自分のこれまでの行動に目を向けていくことになり、ふと耳に入った言葉に突き動かされ、ある人物と向き合うべくクリスティアンは車を走らせます。

 

 

今作ではモンキーマンのパフォーマンスによって物語前半の違和感へのアンサーが与えられたような印象で、作品の中でも特に衝撃を受けたシーンでした。

 

その他にも要所要所で執拗なほどに雑音が入り込み、登場人物の会話に集中しにくい場面があって、起こっている出来事から意識が外れてしまいそうになることが多々ありました。

 

木暮がこれまで観てきた映画では、登場人物の会話が雑音によって遮られることはあっても、それが意図したものである場合がほとんどだったのですが、今作では意図がわからない雑音が多かったように感じました。

 

あれはなんだったのだろうかと、感想を書きながらも思うほどに異様なものでした。

 

そういう異様なものは意外と日常にあって記憶にも留めていないだけなのかもしれないと思うと、木暮もこの映画内で素通りする通行人と同じなのだろうなと思うに至りました。

 

余談(連想して考えたこと)

元も子もない話にはなりますが、スクエアを利用せずとも助けられる社会が理想かなとも思いました。

 

四角く区切られた場所に足を踏み入れ注目されやすくなることで助けを求めやすくする意図があるのかもしれませんが、理想だけを語るなら四角く境界線を引かなくても共生できれば良いのかなとぼんやり。

 

また、なんで「サークル」でもなく「トライアングル」でもなく「スクエア」なんだろうと考えました。

 

クエンティン・タランティーノ監督作品『パルプ・フィクション(1994年)』でミア(ユマ・サーマン)とヴィンセント(ジョン・トラボルタ)の会話の中で個人的に印象に残っているのが、ミアがヴィンセントの性格を四角で表現した場面なのですが、今回はそれを思い出しました。

 

その場面の字幕では「四角四面」と表現されており、「融通がきかない、真面目」などのような意味合いがあるようですが、今作の「スクエア」にも通じるものがあるのかもしれないと思いました。

 

芸術の世界においてクリスティアンは社会への問題提起としての作品《ザ・スクエア》の展示に向けて自分の信念のもと活動していましたが、そういったある種の限定された世界以外にも目を向ける柔軟さも必要だったのかもしれないと、連想しました。

 

関連サイト

www.transformer.co.jp

 

関連記事(2023年11月15日追記)

同監督による2014年公開の映画『フレンチアルプスで起きたこと』の感想記事です。こちらは夫婦、家族の関係の不安定さを感じられる作品でした。

yaora-diary.com

 

*1:2017年5月20日に第70回カンヌ国際映画祭にて上映。

*2:この記事を書いているときは鑑賞できたのですが記事の公開前に再び配信ページを開いたら配信期間が終了していました。現時点ではApple TVとU-NEXTで鑑賞できるそうです。