やおら日記

日々のあれこれを なんやかんや書いているナマケモノ日記

【洋画】『ノマドランド』感想

 

アメリカ西部で各地を転々としながら生活をする主人公ファーン。彼女のように車上生活をして各地を流浪する生き方は「現代のノマド」と呼ばれ、今作はそんな彼らの暮らしと大自然が呼応するように描かれるロードムービーです。

 

 

ノマドランド』概要


www.youtube.com

 公開年*1アメリカ)2021年2月19日、(日本)2021年3月26日

上映時間:108分

監督:クロエ・ジャオ

原作:ジェシカ・ブルーダー『ノマド:漂流する高齢労働者たち』

 

あらすじ

すべての世代に贈る全世界絶賛の感動作 “現代<いま>を生きる答えがきっとここにある” アカデミー賞(R)主要3部門(作品賞・監督賞・主演女優賞)、ゴールデングローブ賞2部門を受賞! “現代のノマド遊牧民)”として車上生活を送る一人の女性が、往く先々で出会う人々との心の交流とともに、困難な今の時代を懸命に乗り越えながら誇りを持って生き抜く姿に、新しい時代の希望を見つける感動のドラマ。  企業の倒産とともに、長年住み慣れた企業城下町の住処を失った女性、ファーン。彼女の選択は、一台の車に亡き夫との思い出を詰め込んで、車上生活者、“現代のノマド遊牧民)”として、過酷な季節労働の現場を渡り歩くことだった。毎日を懸命に乗り越えながら、往く先々で出会うノマドたちとの心の交流とともに、誇りを持った彼女の自由な旅は続いていく… 大きな反響を生んだ原作ノンフィクションをもとに、実在のノマドたちとともに新しい時代を生き抜く希望を、広大な西部の自然の中で発見するロードムービー。(サーチライト・ピクチャーズ作品)

(引用)ノマドランド|映画/ブルーレイ・DVD・デジタル配信|20世紀スタジオ公式

 

感想

今作は諸行無常を映像でみせられたように感じる映画でした。

 

 

2008年にアメリカの大手投資銀行の破綻によって起こったリーマン・ショックは世界経済にも大きな影響を及ぼしました。

 

それにより建設業界も不況に陥り、多くの会社が倒産し主人公のファーン(フランシス・マクドーマンド)が生活していたネバダ州エンパイアでも建築資材を製造していた工場が2011年に閉鎖に追い込まれました。

 

工場の閉鎖により多くの雇用が失われ、ゴーストタウン化したエンパイアは郵便番号が廃止されるまでに至り、ファーンもその影響で職や家を失い、ついにはバンに家財道具を積んで日雇いの仕事を探しに各地を転々とする、現代の「ノマド遊牧民)」として生きていくことを決意しました。

 

日雇いの仕事はAmazonの配送業務や、清掃員、レストランでの調理業務など多岐にわたり、その場で出会った人々と交流していきます。

 

ファーンはそこで出会った同僚のリンダ(リンダ・メイ)からノマドたちをサポートしているボブ・ウェルズ主催のアリゾナ州で行われる集会のことを聞きました。

 

最初は参加に難色を示しましたが、職探しで苦戦していたため集会の場に向かうファーン。

 

そこでは現代のノマドの基本的な生存スキルなどを学ぶ機会が設けられていたり、彼らがなぜノマドの暮らしをするに至ったのかを打ち明ける場もありました。

 

様々な事情から家という基盤を手放し車で移動しながら暮らすノマドたちは現代社会の仕組みから離れた者同士でもあり、その集会の場はまるでノマドたちのひとつの村のようでした。

 

ファーンは彼らと交流を重ねるうちに、他者の考え方や生き方に触れていくことになります。

 

しかし交流を広げながらも彼女は過去の思い出を大切にするがあまり、意固地になっているようでした。

 

かつてお祝いで父親にもらったお皿、住みやすいように工夫してきた古びたバン、住み慣れた家からの景色など、思い入れのある物事が彼女のなかで重く横たわり、身近な人からの言葉を受け取る余地さえ持てない様子から、彼女の生き方にある窮屈さを感じることになりました。

 

家という場所に縛られず、必要最低限の物を持って生活をするのは自由な反面、彼女たちは限られた中で余裕を保っているのではないかとさえ思いました。

 

 

今作では彼らが暮らす、アメリカ西部の大自然を度々目にします。

 

 

大きな岩肌やゆったりとした川の流れ、樹齢何百年かという樹木、そして繰り返し岸壁に打ち付ける波を見ていくと、生き方を模索し藻搔いている人間をすんなり飲み込んでしまうような自然の雄大さを感じました。

 

 

それらの描写を見るにつれ、自然が形を変えながら存在し続けることと、場所を変えながら生き続けるノマドの姿が重なりました。

 

 

そんなに焦る必要はないのだと、背中をさすられているような感覚になるという不思議な映画体験でした。

 

 

またそれらとは別に、彼らがノマドという生き方を選んだ要因のひとつにある社会構造に対する問題提起を抜きには出来ないと思います。

 

今作に登場するファーンとデイブ(デヴィッド・ストラザーン)以外の車上生活者たちは実際にノマドとして暮らしている人たちが起用されたそうです。

 

美しい映像表現によって少し現実味が薄れて見えるところもありましたが、この映画と現実が地続きになっているのだと思うと、綺麗事だけでは見ることが出来ない映画だと感じました。

 

余談

今作を観終わってネバダ州エンパイアについて調べていくなかで、英語版Wikipedia*2によると2016年半ばに鉱山所有者が変わったことで再び人々がエンパイアに戻ってきていたことを知りました。

 

2021年時点での総人口は65人と、徐々に人が戻っているようです。

 

それでも今作のファーンはノマドとして生きていくんだろうなと、ぼんやり思いました。

 

関連サイト

www.20thcenturystudios.jp

*1:2020年9月11日にヴェネチア国際映画祭でプレミア上映

*2:Empire, Nevada - Wikipedia、最終閲覧日:2023年12月6日