やおら日記

日々のあれこれを なんやかんや書いているナマケモノ日記

【新書】アンデシュ・ハンセン『スマホ脳』感想1

 

以前からずっと気になっていた『スマホ脳』。

 

読むのに出遅れた感はありますが、それでも読んで良かったと思う1冊でした。

 

読んでいて特に気になったSNSと人間の脳の関係について読書記録の意味合い強めで書きました。

 

 

都合により感想記事が2つになりました。もうひとつの感想記事は公開したのちにこの記事の最後の方にリンクを貼る予定です。

 

 

スマホ脳』概要

著者:アンデシュ・ハンセン

出版年月日:2020年11月20日

出版社:新潮社

 

著者について

1974年生れ。スウェーデンストックホルム出身。スウェーデンで国民的人気を得た精神科医ストックホルム商科大学でMBA経営学修士)を取得し、名門カロリンスカ医科大学で医学を学ぶ。『スマホ脳』『一流の頭脳』『最強脳』が世界的ベストセラーとなる。

(引用)アンデシュ・ハンセン、久山葉子/訳 『スマホ脳』 | 新潮社

 

本について

平均で一日四時間、若者の二割は七時間も使うスマホ。だがスティーブ・ジョブズを筆頭に、IT業界のトップはわが子にデジタル・デバイスを与えないという。なぜか? 睡眠障害、うつ、記憶力や集中力、学力の低下、依存――最新研究が明らかにするのはスマホの便利さに溺れているうちにあなたの脳が確実に蝕まれていく現実だ。教育大国スウェーデンを震撼させ、社会現象となった世界的ベストセラーがついに日本上陸。

(引用)アンデシュ・ハンセン、久山葉子/訳 『スマホ脳』 | 新潮社

 

特に印象に残ったところ

本書のなかで特に注目して読んだのは以下の3つについてでした。

 

全編を通して既知の情報もありましたが、それらひとつひとつの事例についての補足説明がされており、人間の脳の仕組みや、スマホが脳の仕組みに都合の良いものであるからこそ依存しやすいのだということを体系的にみていきました。

 

また、この本では「スマホ=悪」であるというよりも、人間の脳とスマホの相性が良すぎるがゆえに起こっているスマホ依存に着目していることで、スマホとの付き合い方の見直しとして対策案まで提示されています。

 

さて、今回の感想記事では上記3つのうち主にSNSと生存本能および、スマホ依存への対策についてみていきたいと思います。*1

 

人間の脳とSNSの関係

SNSにおける生存本能

個人的にこれまでSNSは承認欲求との関わりが強いのだと考えていました。「イイネ」などの機能があることで、SNSを用いて自分の承認欲求を満たすという意味合いがあるのではないかと。

 

しかし、どうやらその承認欲求以前の人間の特性が関係しているとのことで、これまでの認識に新たな側面が加えられました。

 

スマホ依存を見ていくにあたって、本書では狩猟時代からの人間の脳の進化への理解がベースになっています。SNSもこの狩猟時代の特性が関係しているようです。

 

狩猟時代は飢餓や外敵が多く、常に身の危険にさらされていました。その危機を生き抜いたことで、現代まで人間が存在しています。

 

なにが自分の脅威になるのかを知るために情報を得ようとしていく過程で、生存本能によって人間の脳は自分の脅威についての情報を集めやすいということで悪いウワサを好んでいきました。

 

それに加え、社交性があった方が生存できる可能性を高められるということで、互いの情報を得るという社交性が人間に本質的に備わるようになり、現代ではその社交性がスマホやパソコンの中に向けられるようになりました。

 

SNSによる孤独感と幸福感

しかし私たちがSNSによってより社交的になったのかと言われると、そうではないです。

 

ボタンひとつで20億人のユーザーと繋がるSNSは、人と連絡を取り合うのに非常に便利な道具だ。でも私たちは本当に、フェイスブックなどのSNSによって社交的になったのだろうか。そういうわけでもないらしい。2000人近くのアメリカ人を調査したところ、SNSを熱心に利用している人たちのほうが孤独を感じていることがわかった。この人たちが実際に孤独かどうかは別問題だ。おわかりだろうが、孤独というのは、友達やチャット、着信の数で数値化できるものではない。体感するものだ。そしてまさに、彼らは孤独を体感しているようなのだ。

(引用)アンデシュ・ハンセン『スマホ脳』pp.136-137より引用

 

この調査に加え、孤独感を感じている人と、幸福感を感じている人にはどのような違いがあるのでしょうか。

 

上記引用文内の調査とは別に、5000人以上を対象にした実験によって現実(リアル)での人との対面の有無によって違いが発生している傾向があるとわかりました。

 

私たちは人に会うと、インターネット上にしても現実にしても、気持ちに影響が出る。5000人以上を対象にした実験では、身体の健康状態から人生の質、精神状態、時間の使い方まで様々な質問に答えてもらった。そこにはフェイスブックをどれくらい使うかという質問も含まれていた。その結果、本当の人間関係に時間を使うほど、つまり「現実に」人と会う人ほど幸福感が増していた。一方で、フェイスブックに時間を使うほど幸福感が減っていた。「私たちはSNSによって、自分は社交的だ、意義深い社交をしていると思いがちだ。しかしそれは現実の社交の代わりにはならない」研究者たちはそう結論づけている。

(引用)アンデシュ・ハンセン『スマホ脳』p.137より引用

 

SNSなど非接触でのコミュニケーションよりも、実生活において他者との時間を設けているほど、幸福度が高いという研究結果が出たそうです。

 

でもなぜ、SNSによって孤独感を感じるようになるのでしょうか。

 

対面で人と会う機会がSNSによって減るからでしょうか。

 

著者は別の可能性としてSNSで他人の幸福なひとときを目にし、自分が損をしており孤独であると感じてしまうことに原因があるのではないかと指摘しています。それにはヒエラルキーの中の位置への認識が、そして脳の伝達物質であるセロトニンが関係していると考えられるそうです。

 

セロトニンはこれまで、心の平安、バランス、精神力に関わるとされてきた。気分に影響するだけでなく、集団の中での地位にも影響するようだ。サバンナザルの群れを複数調査したところ、群れのボスはセロトニン量が多く、支配的でない個体と比べるとおよそ2倍もあった。ボスが自分の社会的地位の高さを認識していることの表れだろう。つまりボスザルは自分に強い自信があった。

(引用)アンデシュ・ハンセン『スマホ脳』p.138より引用

 

この傾向は人間にも当てはまることがわかっているそうです。

 

加えて、何らかの理由でボスの地位を奪われたサルのセロトニン量は凄まじく減り、反対に新しくボスになったサルのセロトニン量は増加していたそうです。ボスが不在になった場合に無作為に選んだサルにセロトニン量を増やす抗うつ剤を与えると、そのサルが指揮を取り出すなど、セロトニンを用いることでサルの権力争いにまで手を加えることができるそうです。

 

これらの実験により、セロトニンヒエラルキーのなかの位置認識に思っていたよりも大きく関係していることがわかりました。

 

そしてセロトニンが減少したサルはうつ状態になり、身を引き、姿を隠しました。これはストレスの原則にも当てはまり、長期間強いストレスを受けた脳は危険だと解釈した世界から離れるためにその人の気持ちを沈ませ、他人と距離を置くようになるそうです。

 

日々の生活を送るなかでメンタル面の不調は特に後を引いてしまうため、特に気をつけたいとは思っていましたが、その認識を超えるほどの役割をセロトニンが持っていると知って少し驚きました。この調査だけで考えるなら、人間は(動物は?)だいぶセロトニンに支配されているんだなと改めて知ることになりました。セロトニンこわい。

 

さて、そんなセロトニンの役割ですが、他人の幸福が目に入りやすいSNSという場面では自分以外の誰かの投稿に対して「よい人生とはこういうものだ」と思うことで、自分が最下層にいるのだと感じてしまいます。

 

これらの論では鶏が先か、卵が先かという疑問は残ります。もともと孤独感を感じている人がSNSをしているのか、SNSを始めてから孤独感を感じるようになったのか。これについては、本書144〜145ページにかけてとある調査をもとに検証がされています。少し長くなるので本記事では取り上げません。

 

SNSではこうした孤独感と幸福感以外にも共感力の低下にも影響を及ぼすそうです。

 

SNSと共感力の低下

共感力にはミラーニューロンという神経細胞が関係しています。

 

他者を模倣することで学習するとされる脳の神経細胞であるミラーニューロンは、それ以外にも脳の複数の領域に存在しており、「他人がどう感じているか」を理解する「体性感覚野」という領域にも存在します。

 

ミラーニューロンはその人の体性感覚野を刺激することによって、他者の痛みを理解できるようにする。この領域を刺激するのは痛みだけではない。他人の喜びや悲しみ、恐怖もだ。つまり、自分の身体と心の間、そして自分と他者との間にも橋を架けるようなものだ。他人を理解したいという生来の衝動は心の理論(theory of mind)と呼ばれる。他人の頭の中を理解しようとするとき、ミラーニューロンが重要な役割を果たすが、脳がどう働くのかははっきりとはわかっていない。ただ、判断を下すときに脳が大量の情報を集めることはわかっている。相手の発言だけではなく、目の動きや表情、仕草、態度、声の調子、さらにはその人に対する他の人たちの反応などが判断基準になる。脳はたいていの場合、これらの情報を無意識に処理し、相手の考えや感じていること、意図していることを体験理解という形で納品する。

(引用)アンデシュ・ハンセン『スマホ脳』pp.150-151より引用

 

こういったミラーニューロンの働きは情報を得ることにおいて必要不可欠な機能です。生まれつき備わっていますが、その機能がすでに発達しているわけではなく、家族や友人などとの対面のやりとりで鍛錬する必要があるそうです。

 

これらの他者との対面のやりとりはSNSなどのデジタルライフにおいて、画像や映像、チャットツールに置き換えられています。

 

1日に何時間もスマホの画面上でのやりとりを続けることで、お互いの理解を深めることが難しくなってはいないか。また、スマホは「心の理論」が未完成の10代の若者たちの共感力を弱めてしまっているのではないか。

 

こうした共感力の低下についての疑問に対し、多くの研究者が論じているようです。

 

何人もの研究者や知識人がその点を警告している。心理学者のジーン・トゥウェンギーやキース・キャンベルは若者の行動を調査し、「ナルシズムという伝染病」がいかにしてSNSの誕生と共に広がったのか、なぜ自分のことばかり気になり、他の人のことはどうでも良くなったのかを論じている。

ただの憶測に聞こえるかもしれない。SNSによって世界中の人の目にさらされ、視野が広がり、自分以外の人の生活を知ることができるのだから、デジタル社会の今、もっと共感力が強くなってもいいはずでは?もちろん、そういうことも当然あり得る。だが70件以上の研究をまとめてみると、トゥウェンギー&キャンベルと同じ結論が示される。1万4000人に及ぶ大学生を調査したところ、80年代から共感力が下がっていた。特に2種類の能力が悪化している。共感力配慮という、辛い状況の人に共感できる能力。それに対人関係における感受性だ。これは別の人間の価値観にのっとり、その人の視点で世の中を見る能力だ。同じ傾向が大学生だけでなく、小学校高学年や中学生にも見られた。私たちは80年代末よりもナルシストになっているようだ。

この増加傾向は、スマホSNSの組み合わせが原因なのだろうか。(中略)デジタルライフが共感力を鈍らせ、心の理論能力を弱めていると100%断言することはできない。だが、まさにそうだと示す兆候がいくつもあり、心配になる。

(引用)アンデシュ・ハンセン『スマホ脳』pp.153-155より一部中略して引用

 

著者が言うように共感力の低下傾向が増加している背景にデジタルライフが関係すると100%断言することはできない現状です。

 

しかしその兆候としてSNS上での自分もしくは自分以外という線引きの傾向をみていくことになりました。こちらの分析でも狩猟時代からの脳の特性をもとに紐解くことで差別問題にも繋がり、本書のSNSについての項目のなかでも特に興味深かったです。

 

少し怖い話として、狩猟採集民のうち10〜15%が別の人間に危害を加えられたことによって亡くなっているというものがあります。

 

農業社会に移行してからはさらに悪化し、その割合は5人に1人にまでのぼったことから、祖先にとって動物による被害や事故、飢餓、伝染病以外にも人間という存在も自分に危害を加えるもののうちに入っていたとわかります。

 

こういった事件が現代でも発生していることにからも、人間にとっての危険な対象は狩猟時代からあまり変わっていないのかもしれないと思いました。

 

また、上記の割合は同じ部族間でのもので、異なる部族同士での割合はもっと高まるそうです。そのことから知らない相手への不安、なかでも見た目が異なる人への不安が湧くのだそうです。*2

 

このことから、人間の脳は「自分たち」とは異なる存在を「あいつら」とし、間に線引きをするようになっているそうです。

 

しかし、著者はこのような特性は現代社会にマッチしていないとも語っています。

 

私は決して、過激な右翼に追随して人種差別をしろと言っているわけではない。しかし人間に内蔵されたこのメカニズムを知っておくことは大事だ。過ぎ去った時代の名残りが、無意識のレベルで私たちに影響を与えかねないからだ。異なるもの、つまり「あいつら」への恐怖は、血に染まった人類の歴史を考えると理にかなっているが、現代社会にはまったくマッチしない。

(引用)アンデシュ・ハンセン『スマホ脳』p.164より引用

 

現代において自国以外の人と関わることはゼロではないですし、差別の問題は程度や種類の違いはあれど多くの人に共通して起こっていることでもあり、その見直しに向けた動きはさまざまな場面で目にします。

 

しかしSNSにおいては、「自分たち」と「あいつら」とを分類しようとする強い衝動が災害や危険への恐怖と同様に発揮されてしまい、過激な出来事に関する投稿の真偽を確かめる間もなく反応してしまうそうです。

 

加えてSNS上で流れるニュースのなかには真偽が確かめられないまま投稿がされているものも多くあり、これらもフェイクニュース拡散の大きな要因にもなっています。

 

そういったSNSの特性は、人間の生存本能からうまれた脳の仕組みと相性が良いことから、共感力が低下した現代では特に付き合い方に注意しなければならないのだと思いました。

 

 

本書を読んで特にSNSと人間の脳の関係についての項目が面白かったため感想記事ではそちらに絞って書きましたが、そのほかにも集中力の低下や睡眠面での問題なども気になる内容ばかりでした。

 

あと、人間の進化についてはユヴァル・ノア・ハラリ『サピエンス全史』も思い出す内容で面白かったです。

 

 

本記事ではSNSと脳の仕組みについてみていきましたが、スマホとの付き合い方については、この記事自体が長くなってしまったのでまた別日に感想記事を公開しようと考えています。

 

2023年10月20日追記

↓アンデシュ・ハンセン『スマホ脳』感想記事の後半部分はこちらです。

yaora-diary.com

 

関連サイト

www.shinchosha.co.jp

 

*1:スマホ依存の現状については、多くの人がすでに実感しているか知っているのではないかと考えたため削りました。

*2:”恐怖を作動させる扁桃体は、見覚えのない人に対してすぐ反応する。”アンデシュ・ハンセン『スマホ脳』p.162より引用。