10歳の天才少年が自分の気持ちに向き合う一人旅
『アメリ(2001年)』でも知られるジャン=ピエール・ジュネによる、アメリカモンタナ州に暮らす天才少年T・S・スピヴェットの旅路を辿る物語。
『天才スピヴェット』概要
公開年*1:(西)2013年9月28日*2、(白・仏)2013年10月16日、(日)2014年11月14日
上映時間:105分
監督:ジャン=ピエール・ジュネ
あらすじ
主人公は、10歳の天才科学者スピヴェット。彼が独りで決行した、アメリカ大陸を横断するという、壮大なスケールの家出が描かれる。自分の才能を理解してくれない家族に黙って、権威ある科学賞の授章式に出掛けたのだ。ジュネ監督は自身初となる3Dに挑戦、独自の世界観を極めたプロダクション・デザインで徹底的に作りこんだ映像が、観る者をまさに夢の旅へと連れ出す。
人並み外れた想像力と好奇心でキラキラ輝く瞳が愛らしいスピヴェットには、これが映画デビュー作とは信じられないカイル・キャトレット。昆虫の研究に人生を捧げる風変りな母親役には、『英国王のスピーチ』やティム・バートン監督作品でおなじみのヘレナ・ボナム=カーター。
実はスピヴェットの家族は皆、彼の弟の死によってポッカリ空いた心の穴を抱えていた。それを小さな体で懸命に埋めようとするスピヴェットの健気な姿は、涙なくしては見られない。スピヴェットは無事に家へ帰り、家族は再び心を通い合わせることができるのか?(引用)天才スピヴェット | ギャガ株式会社(GAGA Corporation)より一部抜粋
感想
これは劇場で3Dで観たかった!!
まるで絵本の世界かのような色彩豊かな自然の描写や、主人公の思考を表す絵が画面でいきいきとしていて、映画館で観ることができなかったのが本当に悔やまれる…
そもそも劇場公開時には全く知らず、ここ数年でAmazon prime Video等で上記のピンクのサムネイルを見かけて知ったので、もっと多くの劇場で公開してほしかった。
そして木暮は同監督作品の『アメリ(2001年)』は観ていないので、比較はできません。
今作は、ライフ・ラーセン『T・S・スピヴェット君 傑作集』を原作にした映画です。
主人公のT・S・スピヴェットは父母、姉、双子の弟、犬と一緒に牧場を営んでいる家で暮らしていました。
T・S自身は10歳にして知的好奇心が旺盛で、ディスカバー誌に論文が掲載されたこともありましたが、学校での先生との相性はいまいち。普段から頭はフル回転で、常に疑問に思ったことを解明しようとノートに綴っています。
父のテカムセ・E・スピヴェット(カラム・キース・レニー)は100年遅れの身も心も100%カウボーイで牧場を営んでいます。必要最低限の口数で、夜には自分の部屋で西部劇を見ながら45秒おきにウイスキーを飲むことを楽しんでいます。
母のクレア博士(ヘレナ・ボナム=カーター)は昆虫博士で、普段から昆虫を「種」か「亜種」かに分類しており、トースターを多数破壊しそれも標本にしています。部屋は昆虫の標本で埋め尽くされており、主人公スピヴェットの知的好奇心のルーツ的存在です。
姉のグレーシー(ニーアム・ウィルソン)は女優やアイドルに憧れ、自分がモンタナの田舎に生まれたことを度々嘆き、母と口論になることも。そして携帯電話を認めない父親についても不満に思っている様子。
T・Sの二卵性双生児の弟、レイトン(ジェイコブ・デイヴィーズ)は、兄のT・Sとは真逆で体格もよく、豪快な性格で相棒の犬のタピオカと、モンタナの自然の中でのびのびと暮らしていました。父親に似ており父親からカウボーイハットを与えられ、牧場はレイトンが継ぐものだと考えられていました。
しかしレイトンはT・Sと遊んでいたときに銃の事故で亡くなり、家族はその出来事の受け止め方がわからず、日々を過ごしていました。
事故が起こった当時、近くにいたT・Sはずっと心を痛めていましたが、レイトンの事故のことを家族とどのように受け止めるべきなのかがわからないまま、ひとり孤独な思いを抱えていました。
そんなとき、T・Sが発明した磁気車輪(永久機関)がスミソニアン博物館の次長ジブセン(ジュディ・デイヴィス)の目にとまり、ベアード賞を受賞した知らせと受賞スピーチをしてほしいという連絡が入ります。
しかし、家族にも学校の先生にもT・Sの才能は信じてもらえず、半ば家出同然でモンタナ州からスミソニアン博物館があるワシントンD.C.に向かいました。
モンタナ州からワシントンD.C.まで行くには、アメリカを横断しなければなりません。
貨物列車にこっそり忍び込むT・Sの姿にはハラハラさせられましたし、列車の旅の途中で出会う老人トゥー・クラウズ(ドミニク・ピノン)と交わした松の木の話は幻想的でした。T・Sの独特な人柄に他者のあたたかさが加わっていき、旅に出る決意をしたT・Sに拍手を送りたくなるほどでした。
途中、危ない目に遭いながらもスミソニアン博物館に到着したT・S。
授賞式では大人たちが聞き入るほどのスピーチをし、一気にT・Sの存在は話題になりました。それえと同時に授賞式後のT・Sの周囲は慌ただしくなっていきました。
ジブセンや周囲の大人たちと、スピヴェット家の人間の解離をじわじわと感じ、一気に暗雲が立ち込めます。
授賞式で立派にスピーチをしたT・Sの話がどんどん一人歩きしたことで、ジブセンをはじめ周囲の大人たちが一気に流れを作っていく様子は、変わり者一家と思えるスピヴェット家の方が幾分かまともなのではないかと思うくらいに異様な様子でした。
物語後半では、触れることができていなかったT・Sの傷と向き合うことになり、授賞式以後のT・Sと家族の関係の変化には胸が打たれました。
今作は話の展開以外にも音楽がよく、そちらも映画館で聴くことができなかったのが本当に残念です。またどこかの映画館で上映してほしい…できれば3Dで…
それと、久しぶりにナチュラルなヘレナ・ボナム=カーターを見た気がします。
『ハリー・ポッター』シリーズや『ファイトクラブ』、『チャーリーとチョコレート工場』、『レ・ミゼラブル』などでは一癖も二癖もある役だったので、今作では主人公の母親役としてナチュラルな姿を見て驚きました。木暮が見ているヘレナ・ボナム=カーターに偏りがあるのかもしれません。『英国王のスピーチ』ではナチュラルだった…
とはいえ、今作の母親も昆虫博士としての癖は強いんですけどね。
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