やおら日記

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【新書】岩田徹『一万円選書 北国の小さな本屋が起こした奇跡の物語』感想

北海道砂川市には、「一万円選書」というサービスを行なっているいわた書店という本屋があります。

 

今回は、いわた書店店主の岩田徹さんによる「一万円選書」の歩みを振り返る一冊です。

 

 

『一万円選書 北国の小さな本屋が起こした奇跡の物語』概要

著者:岩田徹

出版年月日:2021年12月6日 第1刷発行

出版社:ポプラ社

 

著者について*1

北海道砂川市で営業している、いわた書店店主。独自の選書サービス「一万円選書」で話題に。

 

本の内容

本をどう選び、どう読むか――。
1万人以上に本を選んできた書店の店主が、あなたの運命の1冊をお届けします。

NHKプロフェッショナルほか、さまざまなメディアで話題となった、北海道砂川にある町の小さな本屋さん「いわた書店」の選書サービス「一万円選書」。
1年でわずか3日だけの募集で、常時3000人待ちともいわれている一万円選書を書籍で疑似体験。

(引用)(217)一万円選書|ポプラ新書|知識・教養|本を探す|ポプラ社より一部抜粋

 

 

一万円選書とは

いわた書店独自の「選書カルテ」をもとに店主の岩田さんが1万円分の本を選書し、読者に送るサービス。

 

申し込みは1年に1回、7日間のみの募集です。

 

約3700人の応募が殺到し、毎月100名ずつランダムに抽選。順番に送っているそうです。

 

「選書カルテ」の内容(一部)*2

  • これまで読まれた本で印象に残っている20冊を教えてください。
  • これまでの人生で嬉しかったこと、苦しかったことは?
  • 何歳のときの自分が好きですか?
  • これだけはしない、と決めていることはありますか?
  • いちばんしたいことは何ですか?

 

応募についてはこの記事を書いた時点での情報になりますので、いわた書店公式サイトをご覧ください。

いわた書店公式サイト  https://iwatasyoten.jimdosite.com/

 

 

一万円選書に至るまで

北国の個人書店で始まった「一万円選書」は、出版不況に苦しんでいた岩田さんの高校の先輩からの1万円と「これで自分に見合った本を選んでほしい」という言葉から始まりました。

 

このときの経験から、本棚に向き合うことになった岩田さんは、本屋と読者の関係をに改めて向き合うことになりました。

 

このとき僕は改めて、「読者の目線で本棚を見直す」ことの大切さにも気づかされました。これまで、新刊やベストセラーを中心に棚を考えていたのですが、読者は一人ひとり違うのだから、求めている本も一冊一冊違うはずだと気づいたんです。もちろんベストセラーはより多くの人が、その本を求めていた、あるいはおもしろい!と感じたものです。僕が選ぶ本の中にもベストセラーはあります。一方で、必ずしもあらゆる巷の売れ筋が、「その人」にフィットするわけではないとも思うんです。

(中略)

この経験から僕は、読者が「いま何を読みたいか」にもっと耳を傾けて本をおすすめする本屋になりたいと思うようになりました。そうしたオーダーメイドの選書こそ、僕にできることなんじゃないか、と。

(引用)岩田徹『一万円選書 北国の小さな本屋が起こした奇跡の物語』p.45

 

大型書店などは月間のランキングなどに沿った本棚になっているところが大半だと思いますが、個人書店ならではの発想の転換で本屋と読者を繋ぐ「一万円選書」というサービスにたどり着いた岩田さん。

 

しかし2007年に開始してからの7年間は現在ほど軌道には乗らず、応募は月に1人から2人。メディアに取り上げられても、それは一時的なものでしかなかったそうです。

 

その状況は、2014年に受けた深夜番組の取材から一変しました。

 

テレビ朝日「アレがスゴかった‼️」で取り上げられ、SNSを中心に拡散され放送3日後には555件の申し込みがあったそうです。あまりの申し込みの多さに募集を一旦ストップするほどでした。

 

 

選書カルテを通じたやりとり

一万円選書にとって「選書カルテ」は欠かせない存在です。

 

前述の「一万円選書とは」の項目にて紹介させていただいた5つは、「選書カルテ」の一部なのですが、回答に時間がかかりそうです。

 

何歳のときの自分が好きですか?

 

この質問だけでも、いろいろと考えを巡らせてしまう。

 

自身の読書歴を遡って記載する「選書カルテ」によって、本とともに自分の人生を振り返ることにもつながり、何十枚にもわたって記入される方もいらっしゃるそうです。

 

こういった選書カルテを通じたやりとりを、岩田さんは以下のように語ります。

 

直接お会いしたことのないお客さんのカルテを読んでいて感じるのは、「自分のことをわかってほしい」という切実な気持ち。自分はこういう人間なんだ、こういうことがしたいんだ、これが嫌いなんだ。岩田さん、聞いてくださいよ、わかってくださいよ、って。悲痛な叫びのようにも聞こえます。

僕、この選書カルテの対極にあるものが「履歴書」だと思うんです。学歴や職歴を並べて、取り繕った言葉で書かれた志望動機を見ても、その人のことなんて何ひとつわからないでしょう?履歴書より選書カルテのほうが、よっぽどその人のことがよくわかります。

(引用)岩田徹『一万円選書 北国の小さな本屋が起こした奇跡の物語』pp.60-61

 

選書カルテを受け取った岩田さんは、そこに書かれていることからはもちろん、そこに書かれなかったことにも目を向けて、ひとりひとりに選書しています。

 

店舗の営業を15時〜17時までストップして、その時間は店内で1人で選書に向き合うそうです。

 

そうした綿密なやりとりによって選ばれた本を受け取った読者は、読後に感想を伝えるなど、選書以降のやりとりが続いているのが「一万円選書」の面白いところだと思います。

 

岩田さんは本を購入した人を消費者ではなく読者だと考え、本屋を営んでいます。

 

一般的な書店だと消費者として本と書店に関わりますが、一万円選書を通じることで読者からの声を受け取るという書店と読者の関係性は、大量消費の社会ではあまり見られないものだと思います。

 

選書カルテを書いた人も岩田さん自身も、ひとりひとりが違う考えや思いがあり、代わりが効かない存在です。その両者が選書カルテを通して本の世界を広げることができるというのが、一万円選書が求められる理由なのかなと思います。

 

 

おわりに

本書を読んでいくなかで岩田さんの、本との関わりの粘り強い姿勢が特に印象に残りました。

 

出版不況等によりお店の閉店まで考えても、周囲の人からの言葉で踏みとどまり「一万円選書」を通して自分の本来やりたかったかたちでの本屋を実現しています。

 

一万円選書以前も広辞苑の下取り寄贈プロジェクトなども行うなど、地元を中心に書店業界の活性化に向けた取り組みを行い、「ただ待っているだけ」ではない姿勢が伺えます。

 

書店を受け継いでから何十年もずっと動き続け、現在では一万円選書を通じて読者と密な関係を築ける本屋を実現しており、その取り組みは全国各地の個人書店にも広がっているそうです。

 

現在の情報社会では大型書店の存在も重要ですが、個人書店だからこそできる取り組みとして、「一万円選書」の輪はどんどん広がってほしいです。

 

木暮も今年の一万円選書に応募しようと思います。

 

 

本書では岩田さんが実際に選書で選ぶ本についても紹介されています。一万円選書が気になった方にはぜひ読んでほしい1冊です。

 

関連サイト

いわた書店公式サイト https://iwatasyoten.jimdosite.com/

 

www.poplar.co.jp

*1:岩田徹『一万円選書 北国の小さな本屋が起こした奇跡の物語』p.190 参照

*2:岩田徹『一万円選書 北国の小さな本屋が起こした奇跡の物語』pp.3-4 参照