ネタバレなしの方向で書いていますが、基本的にはすでに鑑賞した方向けの感想記事になっています。
まだ鑑賞していない方は、せっかく公式が事前情報なしにした作品なので、できれば何も知らない状態で観ることをおすすめします。
『君たちはどう生きるか』概要
公開年:2023年7月14日
上映時間:124分
監督:宮崎駿
滅多にない映画体験ができた
三連休最終日に鑑賞してきました。
2013年公開の『風立ちぬ』以来、10年ぶりの宮崎駿監督作品ということでテンション高めに劇場に入りました。
普段から事前情報を極力入れないようにして鑑賞する性分なので、今作で公式側が事前情報を出さなかったことが、とても嬉しかったです。
事前情報なしでこんなに話題を呼ぶ作品なんて、なかなかないですよね。
やっぱりスタジオジブリ、そして宮崎駿監督だからこそできる方法。
予告映像を観てしまうとその予告にあったシーンを知った上で鑑賞することになるので、今作ではそれがなかった分、映画全体を通してどんなキャラクターが登場するのか、どんな展開が起こるのかと、先が見えない最大限のワクワク体験ができました。
今作に対する評価
今作を観終わったときの、あのなんとも言えない感動は忘れられません。
エンドロールが終わってからも鳥肌が止まりませんでした。
「凄まじいものを観せられた」と思うくらい、個人的にはパズルのピースがピタッとハマるくらい大満足の映画でした。何のパズルかはわかりませんけども…
そのため木暮的には、今作に対する評価はとても高いです。
その調子で今作についてのレビューを見にいったところ、評価が面白いほど二分していて驚きました。
でもそれも納得です。
今作は何か明確な道筋の提示があるわけではなく、主人公の周りで起こることを一歩引いて見る感覚で鑑賞する作品だと思っています。
物語前半でみせられる主人公の境遇には胸を痛めましたが、物語が進みファンタジー要素が強まるにつれ、主人公への感情移入どころではなくなるからです。
また、次々と展開される場面場面に食いつく感覚で観ていきますが、主人公に降りかかる出来事への理解が追いつかないまま進む箇所もありました。
それでも、重要な場面では主人公に向けられた言葉を自分事のように感じることができ、映画全体で完全に置いてけぼりにされることはない印象です。
これらを踏まえると今作は、明確なテーマなどを見出したい人や登場人物への感情移入に重きを置いて鑑賞する人には少し肩透かしな印象を受けるのかもしれないと思いました。
今作のわからなさについて
正直言うと、主人公の身に何が起こっていたのかを説明するのは難しいです。
実際に観た映像をそのまま言うことはできますが、場面そのままの羅列は意味をなさない作品だと思います。
それらの場面場面から観客がそれぞれ何を見出すのかが試される作品というか…
この記事を書いている時点で映画パンフレットや予告映像がなく、ある種の「正解」が提示されていないこともあって、わけがわからない状態が続く感覚に耐えられるか否か…みたいな色が強い作品だと思っています。
個人的には主人公がとある決断をする場面が1番わかりやすいテーマの提示だと思っているので、その場面とタイトルの『君たちはどう生きるか』という問いかけで、映画全体を通して考える余地が広がって、2回目以降の鑑賞の楽しみが増えた感覚でした。
加えて木暮自体がわからないことがあるとニヤニヤしちゃうタイプなのもあって、今作を好みに感じているのも今作の評価を高くしている要因にあると思います。
反対に、わからないことの答えをはっきりと知りたい人にはキツイ作品なのかもしれません。
でもこれまでのジブリ作品を観てきた人なら、明確なテーマや主人公の成長を期待していたはずなので当然と言えば当然ですし、映画はそれ単体で完結すべきと思うこともあるので、そこは映画に対する意識の違いが大きいのかもしれません。
語り合うのが楽しい
友人も同じ日に観に行ったこともあって、「あれってどういう意味?」「木暮はこう思ったんだけど…」のように長時間語り合いました。
友人は普段、映画をコンスタントに観ないこともあって、語り合う機会は限られていましたが、今作を通してお互いに考えたことや、以前読んだ本と当てはめて考えるなど、自由きままに考察を繰り広げることができました。
このことからも、わからないことを語りながら模索するって、こんなに楽しいんだなと改めて実感した映画体験になりました。
結局、その考察も何かにたどり着いたわけではないので、また何度も鑑賞していこうと思っています。
こうやって、ああでもないこうでもないと考える上で、ネット上で読むことができる感想などは、いろんな視点があって興味深いものばかりです。
木暮とは反対に今作に対して否定的な感想も読んでいると納得する部分もあり、本当に千差万別な受け取り方があって、他の人の感想を読むのが本当に楽しいです。
さまざまなメタファー
今作では多くの人が指摘しているように、宮崎駿監督のセルフオマージュともとれる描写が多々あります。
「このシーン、あの作品のシーンにも通じそうだ」とか、「この人物も全く同じ見た目ではないけれど、あの作品の人物と近いものを感じるな」など、宮崎駿監督作品を観たことがある人なら気になる描写が登場するので、その度にそのシーンの意図に考えを巡らせていました。
加えて、今作では鳥がたくさん登場しますし、それらの存在が何を意味しているのかはさまざまな解釈があると思います。
映画ポスターになっている鳥の存在も考えようによっては、多くの意味合いを持ちますし、観客の解釈に委ねられている面も大きい作品だと思っています。
木暮は映画の作り手ではないので完全な想像ですが、こういった観客に解釈を大きく委ねる作品って、制作側からしてもなかなかの挑戦だと思うんですよね。
それが今回、いままでエンタメとして楽しめる映画を作ってきた宮崎駿監督によるものだということに漠然とした意義さえ感じています。
明確な答えはないのではないか
ここまでくるともう、今作にはひとつの答えのようなものは存在しないのではないかとさえ思います。
つまり、タイトルの『君たちはどう生きるか』への答えもひとつに絞れるものではなく、映画の解釈が多様なことと同じく今作を通して考えたことそれぞれが、それぞれの正解なのではないかと…
だからこそ、さまざまな解釈に触れて自分なりの正解を見つけるのでもよし、映画を観たときの自分なりの解釈を突き詰めていくのもよし、という個人的にはとても優しく厳しい作品のように感じました。
とはいえ、今作のタイトル『君たちはどう生きるか』への返事って、なかなかできないと思うんですよ。
生き方ってその時々で変わっていくものだと思っているので、大筋があるならその大筋を大切に生きるまでですが、大筋さえも途中で変更になることだってあると思うんです。
一応、個人的には「自分の人生の責任は自分しかとれない」的な思いはあるので、それだけでも大切にしていきたいという思いを、今作を見終わった上で再確認することになりました。
そしてそれを続けた先の晩年に今作を観ながら「自分はどう生きたのか」を振り返ることができたら最高な気がします。
余談
吉野源三郎『君たちはどう生きるか』を途中で読むのをストップしていたので、再開するなら今だなと思っています。感想記事は未定です。
また、ジョン・コナリー『失われたものたちの本』も気になっています。