やおら日記

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【小説】パウロ・コエーリョ『アルケミスト』感想

回り道も悪くない

 

少年サンチャゴが夢に向かって旅をして、さまざまな人に出会っていくお話。

 

 

アルケミスト』概要

作者:パウロ・コエーリョ

出版年月日:1988年ブラジルにて出版、1997年に日本で出版。今回読んだ『アルケミスト Anniversary Edition』は2014年11月30日初版発行。

出版社:角川書店

 

本の内容

 半飼いの少年サンチャゴは、その夜もまた同じ夢を見た。一週間前にも見た、ピラミッドに宝物が隠されているという夢――。少年は夢を信じ、飼っていた羊たちを売り、ひとりエジプトに向かって旅にでる。
 アンダルシアの平原を出て、砂漠を越え、不思議な老人や錬金術師の導きと、さまざまな出会いと別れをとおし、少年は人生の知恵を学んでいく。
「前兆に従うこと」「心の声を聞くこと」「何かを強く望めば宇宙のすべてが協力して実現するように助けてくれること」――。
 長い旅のあと、ようやくたどり着いたピラミッドで、少年を待ち受けていたものとは――。人生の本当に大切なものを教えてくれる愛と勇気の物語。
(引用)「アルケミスト 夢を旅した少年」 パウロ・コエーリョ[角川文庫(海外)] - KADOKAWA

 

感想

『ベロニカは死ぬことにした』と同作者の『アルケミスト』を読みました。

 

なかなかに不思議なお話。

 

訳の関係か、ところどころ主語がわかりにくい点があったので、読み進めるのが少し大変でした。それと比喩のオンパレードだったのもあり、読了後の疲労は拭えない…

 

 

主人公のサンチャゴは羊飼いとしてスペインの平原を羊たちと旅していく中で、ピラミッドに宝物があるという夢を繰り返し見ていました。

 

その夢を信じ行動に移した少年は道中でさまざまな人に出会い、多くの学びを得ます。

 

読んでいく中で、少年サンチャゴの長い旅を一緒に歩むことになるので、タイトルにもなっている「アルケミスト錬金術師)」の存在は登場するのかと気になることがありましたが、錬金術師に会うまでの道のりが、あなどれません。

 

 

サンチャゴは夢を信じていましたが羊飼いの仕事にも慣れ、1年前に1度会ったきりの呉服屋の娘のことが忘れられず、ピラミッドに行くのは今でなくても良いのではないかと思い、二の足を踏んでいました。

 

そんな彼の前に現れた1人の老人が放った言葉は、この本を読んでいて初めて衝撃を受けた言葉でした。

 

「おまえはなぜ、羊の世話をするのかね?」

「旅がしたいからです」

老人は、広場の一角にある自分の店のショーウィンドウの横に立っているパン屋を指さした。「あの男も、子供の時は、旅をしたがっていた。しかし、まずパン屋の店を買い、お金をためることにした。そして年をとったら、アフリカに行って、一ヵ月過ごすつもりだ。人は、自分の夢見ていることをいつでも実行できることに、あの男は気がついていないのだよ」

(中略)

老人は話し続けた。「結局、人は自分の運命より、他人が羊飼いやパン屋をどう思うかという方が、もっと大切になってしまうのだ」

(引用)パウロ・コエーリョアルケミスト Anniversary Edition』pp.40-41

 

こんな言葉を言われたら、旅に出ないわけにはいきません。

 

少年はそれまで世話をしてきた羊たちを手放し、アフリカ大陸にあるタンジェという港町へ出発しました。この港町とピラミッドの間には、大きな砂漠が広がっていました。

 

しかし少年は到着するやいなやトラブルに遭い、紆余曲折あってクリスタルを売る店で働くことになりました。

 

そこでもその店主と少年の化学反応によって店や店主の状況、少年自身の考えも変わっていきます。

 

トラブルに遭ったがために、ピラミッドへの旅を断念して故郷に戻り羊飼いになることを考えたサンチャゴは、とある「前兆」を感じ取るようになり、再びピラミッドへの旅を決心します。

 

アンダルシアの丘はここから二時間しか離れていなかった。しかし、ピラミッドと彼の間には、砂漠全体が横たわっていた。でもこの状況を別の視点から見ることもできると、少年は感じた。彼は実際、二時間だけ宝物の近くにいるのだ──その二時間が実際は一年になってしまったという事実は、問題ではなかった。

(引用)パウロ・コエーリョアルケミスト Anniversary Edition』p.95

 

トラブルに遭ってからクリスタルの店で働くようになって約1年。サンチャゴは現地の言葉も理解し、話せるようになっていました。

 

そしてクリスタルの問屋の1人が砂漠を越える際にキャラバンを利用していたことを思い出し、動き出します。

 

砂漠行きのキャラバンの小屋では、錬金術師に会うためにやってきたというイギリス人と知り合いました。

 

ラクダに乗って出発し砂漠を進む中で、イギリス人とのやりとりからサンチャゴは他人と自分の学び方が違うのだということを知り、さらに進んでいくとオアシスに辿り着きました。

 

オアシスで一定期間を過ごしたサンチャゴは、愛する人の存在や自分の財産を得ることになりました。その結果、この先の旅をすることへの恐怖がふたたび襲ってくるのでした。

 

しかし、とある錬金術師に出会ったことで、サンチャゴは自分の心と向き合い、旅路を進むことになります。

 

錬金術師はサンチャゴの宝物は、サンチャゴ自身の心にあるのだと諭しました。

 

しかし、それに対して旅路に不安を抱いていたサンチャゴは疑問を呈します。

 

「なぜ、人の心は夢を追い続けろと言わないのですか?」と少年は錬金術師にたずねた。

「それが心を最も苦しませることだからだ。そして心は苦しみたくないのだ」

(引用)パウロ・コエーリョアルケミスト Anniversary Edition』pp.184-185

 

難しいぞ…

 

自分の心に耳を傾けるのでさえ難しいのに…

 

「夢を追い続けろ」とはっきりしてくれないのは、苦しみたくないという心の特性によるもので、だいたいの人がこの特性の下敷きになってしまうのだと思います。

 

サンチャゴはこの錬金術師の言葉から自分の心を受け入れることにし、さらに旅を続けます。

 

 

サンチャゴの宝物探しの旅は、宝物自体の在処以上に道中の学びが大きな意味を持っているのだと思います。

 

ピラミッドに辿り着いたサンチャゴには予想外の出来事が待ち受けており、「そういうことかー!」と妙な納得感がありました。

 

 

「大いなる魂」などの比喩表現が多々登場するので、読むのが大変でしたがそれらの大きな言葉に捉われずに、サンチャゴが人々たちとの出会いで経験して学んでいったことを思い返しながら読んでいった方がわかりやすいと思います。

 

大きな言葉はニュアンスで受け止めるしかないのかもしれない…

 

また、複数回読むことで大きな言葉を理解していきやすいのかもしれないとも思いました。

 

関連サイト

www.kadokawa.co.jp