もっと早く読んでおけばよかった
森絵都『カラフル』は、書店で見ないことの方が少ない本だと思っています。
今回はその感想記事です。
『カラフル』概要
作者:森絵都
出版年月日:(単行本)1998年7月、(文庫版)2007年9月10日
本記事は文藝春秋版文庫を読んだ感想記事です。
あらすじ
生前の罪により輪廻のサイクルから外されたぼくの魂が天使業界の抽選にあたり、再挑戦のチャンスを得た。自殺を図った少年、真の体にホームステイし、自分の罪を思い出さなければならないのだ。真として過ごすうち、ぼくは人の欠点や美点が見えてくるようになる……。
(引用)森絵都『カラフル』(文春文庫)裏表紙記載のあらすじより、一部抜粋
感想
読み進めていくうちに「もっと早く読んでおけばよかった」と後悔し始めた今作。
『カラフル』は学生時代に苦手だった人の愛読書で、これまで意地を張って読んでこなかったのを本当に後悔…
意地は良くない。
主人公は生前に犯した罪によって輪廻のサイクルから外れたけれど、天使業界の抽選に当たり再び下界でやり直すチャンスを得て、自殺を図った少年・小林真(まこと)の体に入り、自分が生前に犯した罪を探っていくお話。
主人公の魂が入った真は背が低く、友達もいない、成績も良くない中学3年生で、父母、兄と暮らしていました。
下界で過ごすためにガイドとして天界から「プラプラ」という天使も同行し、なぜ真が自殺を図ったのかについての情報を教えてくれるなど、困ったときにガイドしてくれました。
自殺を図った身体は通常の生活に慣れるまで時間がかかり、それまでの間、真の家族との関係に徐々に気づいていき、十分に身体が回復した頃に学校に登校し、そこでは真の学校生活の様子を知ることになります。
学校でも家でも自分を押し込めたまま過ごしていた真にとって、美術室で絵と向き合っているときが一番、心が休まるときでした。
そして、そこに現れる「ひろか」という1学年下の女子生徒と、同じ部活で同クラスの唱子に自分のペースを崩されていきます。
明るい性格のひろか自身も自分の不安定さを怖がっていたり、誰もが少しずつ傷があったり問題を抱えていることを知っていった主人公による言葉は、木暮も身に覚えしかない言葉でした。
人は自分でも気づかないところで、誰かを救ったり苦しめたりしている。
この世があまりにもカラフルだから、ぼくはいつも迷っている。
どれがほんとの色だかわからなくて。
どれが自分の色だかわからなくて。
(引用)森絵都『カラフル』(文春文庫)p.187
「どれがほんとの色かわからない」からこそ、自分の色を探そうと躍起になるし、いろんな色に手を出して収拾がつかなくなったりする。
他人の色が羨ましかったり、欲しがったり…
自分や他人の色を決めつけて自らを閉じ込めるという手段に出たり…
完璧な人間がいないように、色も一色だけじゃなくさまざまな色が混ざっていることを知ることで、他者に対しても自分自身に対しても躍起にならずに向き合えそうな、前向きな気持ちになる1冊でした。
学生時代は特に、学校や家庭という狭い空間で自分の思いを曝け出すことが難しかった頃のことを、この本を読んでいくうちに思い出していきました。
真のように木暮自身も自分で殻に籠っていたので、あの頃の鬱屈としていた自分にこの本を渡せたらと思いました。
いや…
あの鬱屈としていた自分が抱えていた悩みが、こんなに前向きにさせられるのだから、意地になって読まないという決断をしていた自分に会いに行って、「いいから今すぐ読んでくれ!頼む!」と土下座で訴えたいくらいです。
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