事前情報などを考えずに読んでも面白いので、是非読んで欲しい1冊
9月に購入した本の中から今回は、藤本タツキ『ルックバック』の感想を書きました。
上の大見出しにも書きましたが、事前情報なしの状態で読んでもしばらく呆然とするほど、のめり込める作品なので、未読の人はぜひ読んで欲しい1冊です。
ネタバレには十分、注意しながら書きましたが、本文引用もしているのでネタバレが気になる方はご注意ください。
『ルックバック』概要
巻数:全1巻
作者:藤本タツキ
出版年月日:2021年9月8日
出版社:株式会社集英社
主な登場キャラクター
藤野:主人公。自分の絵に絶対的な自信を持っている。物語開始時は小学校4年生。
京本:不登校児。藤野と同じ学年で物語開始時は別のクラス。
あらすじ
自分の才能に絶対の自信を持つ藤野と、引きこもりの京本。田舎町に住む2人の少女を引き合わせ、結びつけたのは漫画を描くことへのひたむきな思いだった。月日は流れても、背中を支えてくれたのはいつだって――。唯一無二の筆致で放つ青春長編読切。
感想
作中全体を通して、藤野の後ろ姿と京本の横顔が印象的でした。
小学生時代の藤野は学級新聞に4コマ漫画を連載し、自分の絵の才能に絶対的な自信を持っていました。
同じ頃、同小学校で不登校児だった京本は、その藤野の4コマ漫画の隣に4コマ漫画を連載するようになりました。
藤野自身は周囲との比較や、周囲の人間から押し付けられる”現実”に打ちのめされ、徐々に絵から離れていきました。
小学校の卒業式の日、藤野は担任の先生からのとある要望で京本の家を訪ね、これまで関わったことのなかった京本と初めて会話を交わし、そのことがきっかけで再び漫画の道に進みます。
それまでは自分ひとりで漫画に向き合っていた藤野でしたが、京本と共に漫画に向き合うことで周囲からの圧力をもろともせず、京本と二人三脚で漫画を描き続けます。
その2人の姿が、冒頭に書いた「藤野の後ろ姿と京本の横顔」でした。
2人が机に向かって漫画を描いている姿は定点から描かれ、2人がいる部屋の窓から見える景色は季節が移り変わりますが、漫画を描く2人の様子は変わらず、対照的に描かれているのが印象的でした。
京本に背中を向けたまま、漫画を描き続ける藤野という構図が、2人の関係性を読み解くための仕掛けのようにも思えて、読み返しては読み進めて…を繰り返しました。
読者は藤野の背中を見続けるのですが、果たしてそれはどの視点で見ていることになるのか…
タイトル「ルックバック(Look Back)」について
この漫画のタイトル「ルックバック(Look Back)」の意味についても、考えていきます。
直訳すると「振り返る」という意味です。
作中では藤野が京本との思い出を振り返る場面も多々ありますし、その意味でも合点はいくのですが、それだけではないのではないかと思います。
作中で藤野は京本との会話で、このような言葉を発しています。
以下の引用文にある括弧《》は、木暮による補足。
《京本》じゃあ私ももっと絵ウマくなるね!
藤野ちゃんみたいに!
《藤野》おー
京本も私の背中みて成長するんだなー
(引用)藤本タツキ『ルックバック』p.83
作中で藤野は、読者に背を向けた状態で漫画を描き続けます。
前述のようにそれは、京本に背を向けた状態でもあります。
その意味も考えると木暮は、タイトルの「ルックバック」は引用文にある、藤野から京本への言葉とも合致するのではないかと思いました。「背中」も「back」と訳すことができるので。*1
しかし、本作のタイトルには1つや2つには絞ることのできない意味が込められているようです。
『ルックバック』を読み終わり、タイトルについて考え、さまざまな考察を目にしました。
その中で以下の記事に辿り着き、タイトル、もとい作品に込められた意味合いへの見え方が少し増えました。
この記事の中で、イギリスのロックバンドOasisの楽曲とも繋げた考察がされていました。
タイトルのルックバック(Look Back)には“振り返る”、“追憶する”、“背中を見る”などの意味があるが、2ページ目に描かれた“Don’t”の文字や、最後のページに描かれた文字もあわせて考えると、イギリス出身のロックバンド・Oasis(オアシス)の、とある楽曲が浮かび上がってくるのだ。
(引用)藤本タツキ『ルックバック』が大反響! ジャンプ+にて公開中、143ページの大長編読切マンガのタイトルに込められた意味とは? | ゲーム・エンタメ最新情報のファミ通.com
この記事ではOasisの該当の楽曲名についての明言はされていませんが、『Don't Look Back In Anger』が該当の楽曲だとわかります。
曲名を知らなくとも、誰もが聴いたことのある名曲だと思います。
作品後半では思いもよらないことが起こって、一種のパラレルワールド的な表現で藤野と京本の関係性がまた別の角度から描かれ、衝撃を受けました。
Oasisの『Don't Look Back In Anger』は1995年に発表された楽曲ですが、近年では以下の記事にあるような出来事から、再び注目を集めた楽曲でもあります。
これらも踏まえて作品後半での出来事を振り返ると、藤野の京本への思いや、作者の作品に込めた思いが見えてくるようです。
今回はタイトルに絞りましたが、作中では他にも映画などのオマージュとも取れる箇所があり、それらの作品を知っていると、また別の視点から作品を読むことができると考えます。
今回『ルックバック』を読んで、作者の他作品も気になり始めましたので、他作品を読んだら随時、感想記事を書いていこうと思います。
*1:ただし、「背中を見る」を英訳する場合、「look back」ではなく「look at the back」になるのですが…