若者と明け方の相性は最高な気がする。
前回の記事で感想を書いた、カツセマサヒコ『明け方の若者たち』は、2021年に映画化がされています。
今回は映画版『明け方の若者たち』と、スピンオフ映画『ある夜、彼女は明け方を想う』の感想を書いていきます。
ネタバレ無しの方向で感想を書いています。
映画『明け方の若者たち』概要
公開年:2021年12月31日
上映時間:116分
監督:松本花奈
原作小説:カツセマサヒコ『明け方の若者たち』
主な登場人物(括弧内はキャスト)
僕(北村匠海):主人公。
彼女(黒島結菜):”僕”の一目惚れした人
尚人(井上祐貴):”僕”の会社の同期。親友。
あらすじ
東京・明大前で開かれた学生最後の退屈な飲み会。
そこで出会った<彼女>に、一瞬で恋をした。
下北沢のスズナリで観た舞台、高円寺で一人暮らしを始めた日、
フジロックに対抗するために旅をした7月の終わり・・・。
世界が<彼女>で満たされる一方で、社会人になった<僕>は、
〝こんなハズじゃなかった人生″に打ちのめされていく。
息の詰まる会社、夢見た未来とは異なる現実。
夜明けまで飲み明かした時間と親友と彼女だけが、
救いだったあの頃。
でも僕は最初からわかっていた。
いつか、この時間に終わりがくることを・・・。
予告編映像
原作小説
感想
物語については小説からの改変等は特になく、映画の中の”僕”と”彼女”、尚人は、小説で読んだ時の想像に近かったです。
”僕”と”彼女”の出会いになった飲み会は結構リアリティがあり、高円寺や吉祥寺に行ったことがない木暮にとっては、映像で見ることによりその土地のイメージを知ることができたのは大きかったです。
前回の記事で書いた原作小説の巻末に、今作の監督を務めた松本花奈監督の解説があり、映画化にあたって考えていたことが記されていました。
プロデューサーの中島さんとは、「リアルな同時代感」と「共感性」というキーワードを基に世界観を構築した。「小説読んで、俺の話じゃんって思ったわ」「いや、私の話ですから」そんな会話を何度もした。クジラ公園、ヴィレッジヴァンガード、本多劇場、エイリアンズ、純情商店街。彼らがいた世界観を忠実に再現したかった。だからこそどうしても、その場所で、その音楽でなきゃダメだった。
(引用)カツセマサヒコ『明け方の若者たち』(幻冬舎文庫)p.245
小説を読んで自分と”僕”を重ねた木暮は、「共感性」ドンピシャでした。
「こんなはずじゃなかった」と思ったこともあったし、「この楽しい時間はいつまで続くのか」と思ったこともありました。
たぶん、こういう風に共感した人は結構多いんじゃないかと思います。
物語のテーマ的には普遍的なものだと思いますが、「同時代感」というものが合うことで現代に実際に”僕”と”彼女”がいるんじゃないかという感覚で映画を観ることができました。
やっぱり映画の中でも”僕”の葛藤は止まらず、彼女はその横にいて余裕がある様子は印象的で、彼女のその余裕が2人の距離を離しているようで、とてももどかしい気持ちにさせられました。
まさに”沼のような5年間”がそこにはあり、小説以上に”沼”の様子が広がっていたのではないかとさえ思います。
今回、スピンオフ映画作品『ある夜、彼女は明け方を想う』を観て、小説にも描かれていなかった”彼女”のこれまでに迫ることができました。
映画『ある夜、彼女は明け方を想う』概要
公開年:2022年1月8日(Amazon Prime Videoで公開)
作品時間:45分
監督:松本花奈
主な登場人物(括弧内はキャスト)
彼女(黒島結菜):主人公
キーパーソン(若葉竜也):主人公と近しい人
友人(小野花梨):彼女の友人
感想
『明け方の若者たち』で”僕”に感情移入していた人にとって、”彼女”のミステリアスな部分は、とても気になるところだと思います。
余裕があって、無邪気で、ズルさもある”彼女”が、”僕”と出会う前のお話と、『明け方の若者たち』のその後の彼女が、彼女目線で描かれていました。
”彼女”の余裕がどこからきているものなのか、”彼女”は将来についてどのように考え決断し、社会人1年目を迎えたのかが、45分という短い時間の中でも丁寧に描かれており、もし”僕”がこの作品を見たら身悶えするんじゃないかとさえ思いました。
”彼女”自身が抱えていた葛藤も、『明け方の若者たち』ではみえなかった部分まで観ることができ、”彼女”の葛藤にも共感する場面がありました。
それでも”彼女”には「ズルいな〜」と思うと共に、彼女の無邪気さが”僕”との関係の鍵となっていたのではないかと思いました。
その他、『明け方の若者たち』のラストシーンと重なる部分や、「まさか、そこがそう繋がってくるのか」と驚くこともありました。*1
2作品通して観ると、「理屈じゃないんだろうな」という気持ちになり、小説では立ち入れなかった部分も観ることができたようで、とても印象に残る作品でした。
原作小説に関する過去記事
関連サイト
*1:ネタバレしたくないので、とても濁した言い方になっています。