やおら日記

日々のあれこれを なんやかんや書いているナマケモノ日記

【邦画】『家族ゲーム』感想

以前からさまざまなところで目にしていた不朽の名作『家族ゲーム』を、先日Amazon prime videoの追加料金なし期間が終了するということで、駆け込みで初めて観ました。*1

 

結論から言うと作中の至るところで違和感は感じ取れたけど、自分の中に落とし込めて考える段階まで到達しなかったという感じです。*2

 

なので、今回の感想も作中のポイントを拾えきれていない可能性が高いのが現状です。

おそらくこういうことを伝えたいのではないかと考えても、自分のその考えがしっくりこないという感じが延々続いて、とにかく難解でした。

 

また、作品全体を通して隠喩もしくは直喩がなされている箇所が多々あることはわかりましたが、全部の意味合いを落とし込めていないので意図せずネタバレになっていることがあるかもしれません。まだ観ていない人はご注意ください。(基本はネタバレ無しの方向で書いています)

 

 

 

家族ゲーム』概要

公開年:1983月6月4日

上映時間:106分

監督:森田芳光

原作小説:本間洋平家族ゲーム

 

主な登場人物(括弧内はキャスト)

吉本 勝松田優作):茂之の家庭教師

沼田 茂之宮川一朗太):中学3年生、沼田家の次男

沼田 孝助伊丹十三):茂之と慎一の父親

沼田 千賀子由紀さおり):茂之と慎一の母親

沼田 慎一(辻田順一):高校1年生、沼田家の長男

 

あらすじ

沼田家では次男・茂之の高校受験を控えてピリピリした毎日が続いていた。両親の計らいで家庭教師がつくことになるが、やって来た吉本と名乗る男は三流大学に7年も在籍している男。その教育指導も一風変わっていたが、茂之の成績は徐々にアップして行く。そしてそれにつれて沼田家にもある変化が…。

(引用)家族ゲーム | 映画 | 日活

 

原作小説

www.shueisha.co.jp

 

感想

キネマ旬報が選ぶ1980年代日本映画ベストテン第1位の『家族ゲーム』。*3

 

とにかく次々と違和感の波がありました。

そしてそれぞれに対して疑問が止まりませんでした。

 

例えば、

 

  • 横並びの食卓テーブル
  • 父・幸助の目玉焼きの食べ方
  • 家庭教師の吉本の人との異様な距離の近さ、船に乗ってやってくること
  • 兄・慎一が行く友人宅の構造(お店で挨拶→茶の間→エレベーター→高層階の部屋)
  • 母・千賀子の趣味(?)のレザークラフト
  • 茂之の興味の範囲内にあるジェットコースターの構造

 

などなど…

 

ネタバレにならない範囲で書きましたが、これら以外にも疑問に思う箇所が多々ありました。

 

上記の中でも横並びのテーブルは食堂のカウンター席かのような印象で、それが家庭の中にあるという違和感は結構ありましたし、レビューなどをみてみると言及されている人が多い印象です。

 

横並びなので、4人が揃って食卓を囲んでいても*4、向かい合うことはないんですよね…

 

題名にもあるように「家族ゲーム」ということで、沼田家というひとつの家族の状況を鑑賞者にはっきりと提示する仕掛けかと思うのですが、きっちり4人で成立していた横並びテーブルに家庭教師の吉本が加わることで両端の人はスペースギリギリで食べていて、窮屈そのものでした。

 

物理的な距離は近いのですが、向き合ってはいないので異様な感じがするんですよね…

 

そもそも映画を通して観てみると、横並びテーブルを中心に家庭が回っているようにもみえたのに、その家庭の基礎となるような部分で向き合っていないのはこの映画を観る上でのポイントになっているような気がしました。

 

映画後半にあるこのテーブルが活躍するシーンはなかなかに狂っており、衝撃的でとても印象に残っています。

 

あと、もうひとつ疑問に思っていた部分としては、

慎一がクラスメイトの友人宅に行くシーンで、ちょっと違和感のある流れがあったところです。

 

簡潔に言うと「どんな構造の建物だよ!!」というツッコミをしたくなるような見せ方だったと思います。

 

綺麗なお店にいるお姉さん(店員さん?)に挨拶をして、座卓がある「ザ・茶の間」みたいなところを通ってエレベーターで高層階まで上がったところが、クラスメイトの友人の部屋という見せ方にどんな意図があるのか…

 

その意図と違和感について考えているうちに、映画鑑賞終了まで次々と違和感が押し寄せ、自分の思考が全然追いつかない…

 

家族ゲーム』を観たあとに考察サイトなどを複数みてみましたが、森田芳光監督が別の映画のオマージュとして撮ったシーンもあるみたいなので、それらを追うとまた違和感が晴れるのだろうかと思っています。

 

そして木暮は今作で松田優作さんの出演作品を初めて見ました。

松田優作さんの長男の松田龍平さんをところどころ思い出すようなことがあり、声や話し方、目の表情が似ている…と衝撃を受けました。

 

家庭教師の吉本は独特な雰囲気を持っていて、全くと言って良いほど内面部分が見えない不気味な人物でした。その演技をしていた松田優作さんの表現の細かさには惹き込まれました。

 

余談

茂之が家庭教師の吉本に勉強を見てもらい始めた頃、ノートに「夕暮れ」と書き連ねるシーンがある。そのシーンで『銀魂』の山崎退のあんぱん日記を思い出してしまった俺は今日もあんぱんを食らう。*5

 

映画内の食卓と家族の見え方

今回の『家族ゲーム』の中に登場する食卓の違和感を観ていると、2016年公開の邦画『葛城事件』を思い出しました。

 

その『葛城事件』の中でも食卓のシーンが度々登場するのですが、葛城家という家族の状況がはっきりと映し出されていてとても印象的でした。

 

以下、『葛城事件』の概要。

 

映画『葛城事件』概要

youtu.be

公開年:2016年6月18日

上映時間:120分

監督:赤堀雅秋

 

あらすじ

どこにでもありそうな郊外の住宅地。ボソボソと「バラが咲いた」を歌いながら、葛城清(三浦友和)は、古びた自宅の外壁に大量に落書きされた「人殺し」「死刑」などの誹謗中傷をペンキで消している。やがて庭へと移動し庭木にホースで水を撒きながら、ふと、この家を建てた時に植えた、みかんの木に生(な)る青い実に手を延ばす―――。

親が始めた金物屋を引き継いだ清は、美しい妻・伸子(南果歩)との間に2人の息子も生まれ、念願のマイホームを建てた。思い描いた理想の家庭を作れたはずだった。しかし、清の思いの強さは、気づかぬうちに家族を抑圧的に支配するようになる。 長男・保(新井浩文)は、子供のころから従順でよくできた子供だったが、対人関係に悩み、会社からのリストラを誰にも言い出せずにいた。堪え性がなく、アルバイトも長続きしない次男・稔(若葉竜也)は、ことあるごとに清にそれを責められ、理不尽な思いを募らせている。清に言動を抑圧され、思考停止のまま過ごしていた妻の伸子は、ある日、清への不満が爆発してしまい、稔を連れて家出する。そして、迎えた家族の修羅場…。葛城家は一気に崩壊へと向かっていく。

(引用)映画『葛城事件』公式サイト
 

 

家族ゲーム』と『葛城事件』での食卓風景

家族ゲームでは細長いテーブルに横並びで座り食事をする沼田家の様子に、強烈な違和感を覚えます。

 

そのテーブルの前にはおかずの乗ったカートのようなものがあり、それぞれが手を伸ばしてカートを転がして取るというスタイルも独特でした。

 

取りづらそうだし、そもそも部屋が狭いとしても横並びにしなくても…

 

食卓上は千賀子による手料理で充実したものになっていますが、それ以上に「向き合っていない」状況が強く印象づけられていました。

 

さて、『葛城事件』ですが『家族ゲーム』のような形のテーブルではなく一般的な食卓テーブルに椅子が向かい合うように並べられている点は、特に違和感はありませんでした。ドラマや映画でよく見かける普通の家庭の食卓テーブルという感じです。

 

しかし、その食卓で家族揃って食べるシーンは限定的で、しかもコンビニ弁当などの出来合いのものが多く、そのテーブルでひとりでコンビニ弁当を食べる南果穂さん演じる伸子の姿は、『葛城事件』内で描かれる「家族の崩壊」が徐々に進んでいる様子が伝わってきて嫌なリアリティがありました。

 

ここでは「向き合っているけれど向き合っていない」という状況が視覚的に訴えかけられるので『葛城事件』の陰鬱とした雰囲気に入り込み、最終的にはその他の要素も押し寄せて映画鑑賞後に精神的に沈んだのを覚えています。*6

 

 

家族ゲーム』や『葛城事件』に描かれた食卓の風景は、作中の家族の様子が如実に表れ、演出としては目が離せないものになっていました。

 

そこでの会話や、やりとり、料理など注目して観てみるとその家族について覗き見ているようでより面白く感じます。

 

他にも「家族」が登場する映像作品で、上記2作品のようなものでなくとも家族の状況や関係性が食事のシーンで見え隠れするので『葛城事件』を観て以降、映像作品を観る上で特に食事シーンは気になっている部分です。

 

先日観た『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』でもレイ・クロックとその妻の食事シーンがありましたが、そこでの会話の量ややりとりなどでも2人の関係性や、人物の心理描写が表現されていたので、映画の食事シーンは面白いです。

 

「フード理論」

最近、映像作品内に登場する食事シーンについて注目して観ていく中で、「フード理論」というものを知りました。

 

フード理論とは

漫画や映画、小説などに登場する食の場面を分析し、そこに込められたキャラクターの性格や関係性、背景などを読み解いていく試み。「仲間は同じ釜の飯を食う」「正体不明者は(腹の底を見せないために)フードを食べない」など、言われてみれば「確かに!」と膝を叩くものばかり。フード理論を身につければ、物語の味わい方がぐっと深まるはず。ちなみに、フード理論はあの完結したばかりの大人気漫画『進撃の巨人』の設定にも影響を与えている。

(引用)福田里香の“フード理論”で見る「お茶」と「漫画」<前編> – 煎茶堂東京オンライン

 

この「フード理論」について論じているのは、お菓子研究家の福田里香さんで、この理論についての著書も出版されています。

 

www.ohtabooks.com

 

積読の猛者を自称している木暮ですが、この本は積読山にもなく未読なため、今後読みたい本リストの最上位に入れました。

 

10年前に出版された本ということで、もっと早く読めばかつて映画館通いしていた時期に観ていた映画ももっと面白い見方ができたのではないかと思い、軽くショックを受けています。

 

この本を読み終えたら、また記事にすると思います。

 

おわりに

家族ゲーム』を観て違和感を感じたけれど、その違和感について掘り下げることができなかったのは、勿体無かったと思っています。

 

映画公開時の1980年代特有の学歴至上主義や*7、当時実際に起こった家族間の事件などを踏まえると、もっと入り込んで観れるのかもしれないと思っています。

 

予備知識ゼロの状態で観たので、再度観るときはもっと見方を変えて観たい作品でした。

 

加えて、あの独特な展開や雰囲気、ラストシーンなどは謎が深まるばかりで、『家族ゲーム』を観たことがある人と話すと止まらなくなりそうだなと思います。考察サイトなどを観ていても、人によってそこそこ見解が分かれているのも興味深いです。

 

その他、物語の内容以外でも演出方法や、カメラワークなども独特だったので映像作品として見どころ満載でした。

 

今回は映画版の『家族ゲーム』について書きましたが、テレビ朝日・TBS・フジテレビで何度もドラマ化されているようなので、それぞれの「家族」の描かれ方を観るのも面白そうだと思います。

 

原作小説もチェックしたいところ…

 

関連サイト

映画『家族ゲーム

家族ゲーム | 映画 | 日活

 

キネマ旬報が選ぶ1980年代日本映画ベストテン、第1位は「家族ゲーム」 - 映画ナタリー

映画『葛城事件』

映画『葛城事件』公式サイト

 

葛城事件 特集: 長男はリストラで孤立、次男は死刑囚、母は精神崩壊、そして父は──“最悪”だが“最高”! この《後味の悪さ》、やめられない、止まらない!! - 映画.com

 

*1:2022年5月24日現在はAmazon prime videoの場合はレンタル視聴可能

*2:絶妙に悔しい。

*3:キネマ旬報が選ぶ1980年代日本映画ベストテン、第1位は「家族ゲーム」 - 映画ナタリー

*4:囲んでいないけど。

*5:アニメ『銀魂』2期、第205話「食事はバランスを考えろ」参照。…あんぱんあんぱんあんぱん(以下、無限)

*6:映画館で観ましたが、上映終了後の観客全体の空気の重さは今でも覚えています。

*7:今も続いていますけども…