森見登美彦『夜は短かし歩けよ乙女』
今回の記事は、このブログ始まって以来初めての、読書に関する記事です。
ブログ開設後、長い間ブログのテーマに沿ったブログを書いていませんでしたが、今回は書評ブログ第1弾です。
今回の作品では、主に主要登場人物2名に絞って感想を書いていきます。
ネタバレはしません。
読んだきっかけ
以前、今年読みたい本の記事にも書いたのですが、2017年にアニメ映画が公開されて以降、本を入手し、手元にはあったのですが、京都の街並みを節々で思い出し、なかなか読み進めることができず、現在までに至ってしまい、ブログを使って読了のモチベーションを上げようとしたのが、この本を読んだきっかけの本当のところです。
森見登美彦の本は、この本が初めてで独特の言い回しは、癖になるものでした。
あらすじ
黒髪の乙女にひそかに想いを寄せる先輩は、京都のいたるところで彼女の姿を追い求めた。二人を待ち受ける珍事件の数々、そして運命の大転回。山本周五郎賞受賞、本屋大賞2位、恋愛ファンタジーの大傑作!
このお話は、京都を舞台としており、主要登場人物2人は大学生(京都の某国立大学生)です。
- 先輩
- 黒髪の乙女
の主に2人が登場しますが、他にももっと登場する人物はいます。今回は上記2名のみの表記で他の登場人物は割愛します。ちなみに、登場人物は思っていた以上に多く、読み進めるにあたって覚えるのに少し苦労しました。
物語は先輩と黒髪の乙女の2名を主に主人公として、進められます。
先輩視点・黒髪の乙女視点が節ごとで変わるため、最初に読む時は場面を飲み込むのが大変でしたが、とても面白い視点展開でした。
先輩は、黒髪の乙女が気になっており、彼女の外堀を埋めることに注力しており、様々な場面で偶然を装い、彼女に印象を持ってもらおうと考えています。しかし、ことあるごとにタイミングが悪く、なかなか彼女と接点をもつことができず、そのまま物語は進んでいきます。
一方の黒髪の乙女は、自分の気持ちの赴くまま、出会った人たちに対し純粋な気持ちで向き合い、何事にもまっすぐと突き進んでいます。風邪をひいている人がいれば迷わず見舞いに行き、道端で困っている人を見かければ、臆することなく問題解決に尽力するなど、読んでいて大変爽快です。
臆することない点から見ると、黒髪の乙女と先輩は相反する性質のように描かれています。この点に関しては以下の感想項目でもう少し述べたいと思います。
感想
読了後の感想は、この純文学的な表現は癖になるということでした。
こんな感想を述べているにも関わらず、私自身は純文学なるものをほとんど読んだことがありません。強いて言うならば、高校の時に習った芥川龍之介『羅生門』なら多少の記憶があるくらいです。
先輩も黒髪の乙女も、現代の話を舞台にしているはずなのですが、言葉遣いが丁寧で、その時々の場面描写や感情の表現が豊かで、その都度読んでいる側はその情景を思い浮かべることができるほど、緻密な表現がされています。
そのため、京都を舞台にしている作品として、読むにつれて京都の町中を主人公たちと一緒に歩んでいる感覚を味わうことができました。
さて、物語の内容に関してですが、先輩の「彼女の目にとまる」ために起こすアクションの数々の水泡に帰す描写は、爽快であり、時にはもどかしい気持ちにもなりました。
一方の黒髪の乙女は、自分の気持ちの赴くまま、突き進む姿は私にとって羨望の対象でした。
ここで自分語りをするならば、私は断然、先輩の側の人間です。万年床から出るのがなかなか億劫で、直接的な行動を起こすことはないという点に関してですね。
しかし、この先輩は、黒髪の乙女の外堀を埋めていく作戦を立て、なんだかんだ実行に起こしている点では目標のために行動しており、感服いたしました。
文化祭の場面では、私が思わず「おお!!」という言葉を漏らす行動も起こしている先輩。
先輩は一見考えすぎなところもありますが、なんだかんだ言って、勢いに身をまかせることもあり、その流れに乗る姿は、かっこいいの一言です。
物語の中ではおよそ1年の時間が経過していますが、黒髪の乙女、先輩の両者は、周囲の人からすればもどかしいほど関係が進展していません。
ただ、そんな周囲の人と黒髪の乙女の関係や、先輩の関係などが紡ぎあい、物語は着々と進んでいる(た?)ことは、のちにわかり、その数々を想起することは、この物語を読む上での醍醐味だったのかなと思いました。
結局、この本を読んで何が言いたいかと言うと、ある不思議な一夜の出来事でも、黒髪の乙女や先輩のように勢いに乗ってみるという行動も、たまにはいいのかなということでした。
というか、そうしたいなあという願望ができました。
加えて、この本は京都を舞台にしているので、京都の地理を知っている人には物凄くおすすめしたい本ではありますが、中身は青春群像劇でもあるので、万人に共通して先輩のもどかしさや黒髪の乙女の突き進む姿は共感できるものだと思います。
しかし、2人の周りにいる人々や、起こる出来事の数々は不可思議なものばかり。見所は沢山です。
もっと早く読んでいたら、また違う感想になったかもしれないなと思った次第です。
最後に余談
今回は文庫版で読了したのですが、解説に漫画家の羽海野チカ先生が、黒髪の乙女やその他登場人物を描いておられました。
贅沢!!!!!
漫画版は琴音らんまる先生が描かれておられますが、私欲で語るならば、羽海野先生が描いた漫画版も読みたいという強い衝動に駆られています…!
特に、主人公たちに密接に関係する羽貫さんの描写は、イメージ通りで、それはそれは…!
しかし、実は私、琴音らんまる先生の読者でもあり、琴音先生の漫画版も読みたいと考えています。この『夜は短かし歩けよ乙女』に関わる人たちは、私が個人的に好きな人たちばかりで、「この偶然はなんなのか!」と驚いています。
映画版の主題歌もASIAN KUNG-FU GENERATIONの「荒野を歩け」であったり、偶然に偶然が重なり、この作品に出会ったのが運命ではないかとさえ、はしゃいでいます。
これこそ、御都合主義者かく語りき*2かもしれませんね。
長くなりましたが、最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
また今後もよろしくお願いいたします。
【漫画版『夜は短かし歩けよ乙女』】
【映画版『夜は短かし歩けよ乙女』】※映画版予告映像です